クズな俺でも夢を持った


429: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 17:33:37.64 ID:iH3diVCK0
河川清掃は朝早くから行われる
地区にはお年寄りが多いので、早い時間帯からやるのは昔からの慣例だそうだ

特にどこをやるだとか、何をしなきゃならないという決まりはなく、
各々が開始の時間になると外に出てきて
自分の家の周辺の側溝?であったり道を掃除する

初対面の人が大勢いるだろうから、かなり緊張した
タオルを首にかけて軍手して…変な感じだったなw

430: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 17:39:58.33 ID:iH3diVCK0
とりあえず、俺は宿の敷地前の道の雑草にとりかかった
草取りなんて、学生時代の行事でやった以来だ…
実家の庭の草取りくらいしろ、とよく怒鳴られたっけ…なんて思い出した

草を抜いていると、何となくニート時代の事を思い出してモヤモヤした
それを振り払いたくて、しばらく路端に生えている雑草取りに熱中していると、
カランカランと音を立てて、誰かが近寄ってきた




431:名も無き被検体774号+:2013/04/06(土) 17:42:22.06 ID:45Ld1ZsTI
追いついた!期待

433: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 17:50:13.49 ID:iH3diVCK0
そこには、例の女の子が立っていた
髪を結んでいたので、最初すぐに誰か分からなかった
俺に気づいて、目を丸くした

女の子「あ、おはようございます…」
俺「ああ、おはようございます」

女の子「空き缶を集めてるので…もしあれば…」
気まずいのか、恥ずかしそうに話しかけてくる
でも俺はその気遣いが嬉しかったし、知り合いがいて良かったと思えた

434: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 17:55:01.32 ID:iH3diVCK0
しかもこの偶然、俺にとってはとてもラッキーなものだった
偶然持て余していた空き缶ゴミがあったし、
その子も俺の近くで一緒に草を取るような流れになった

俺「親父さんに、この近くに住んでると聞きましたが…」
女の子「ええ…目と鼻の先ですよ。本当にすぐそこです。」

ぶっきらぼうではあるが、会話が成り立つ
それがとても嬉しくて、ウキウキして草取りに励んだ

436:名も無き被検体774号+:2013/04/06(土) 18:09:50.08 ID:xHuG0eWt0
おかえり!
体調良くなってよかったな

439: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 18:30:34.06 ID:iH3diVCK0
こんなに可愛らしい人と一緒に草取りしてる事が不思議だった
というより、なんだかシュールで笑えてきそうな位だった

俺「この辺っていいところですよね」
女の子「田舎ですからね…何もないですけど」
こんな他愛もない会話を繰り返していた

話し方にトゲはあるけど、きっとそれがこの人なんだろうって思って
最初ほど違和感や変な印象は受けなくなった
でもなんでこんなにドライなんだろう、という疑問はあったけど

440: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 18:37:14.46 ID:iH3diVCK0
それでいて、やけに生真面目で
草をまとめると「それ、こちらの袋にどうぞ」とか、
靴が汚れそうになると「ああ、靴が汚れちゃいますよ」
とか言ってきて、なんだかとても不思議な感じだった

本当のアナタはどっちなの?って感じで
全然性格とかそういうのが掴めなかった
一緒にいて、特段居心地が悪いとかはなかったんだけど

今までに会ったことのない影を持った感じの人だったので
すごく興味深かった

443: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 18:50:52.12 ID:iH3diVCK0
しばらく一緒になって草取りして、時間が過ぎた
すると唐突に女の子が立ち上がった

女の子「あ、時間ですね」
俺「え?何のですか?」
俺がそう言うと女の子は嫌そうな顔をした

女の子「知らないんですか?」
俺「ええ…」
女の子「取った草を燃やす時間なんです」
ため息混じりで教えてくれた。やっぱり、まだまだイラッと来るところはあるw

444: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 18:57:05.61 ID:iH3diVCK0
女の子「一箇所に集めて草を燃やすんです。そこで簡単なお茶会もします」
俺「あ、そういう事なんですか…」
女の子「集まりだって大切な行事の一貫ですからね?一人だったらどうしたんですか?」
何故か知らないが怒られた

俺に落ち度があったとは言え、なんだかあんまりだ…
女の子に促されるまま、草が目一杯入った袋を抱えて歩いた
小さな空き地に出て、すでに焚き火が行われていた
その周りを、何人もの人が取り囲んで談笑していた

445: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 19:02:48.25 ID:iH3diVCK0
女の子「お疲れ様です」
「あ、カドワキさんご苦労様ー」「カドワキちゃんだ、いつもありがとねー」
輪に入っていった女の子は次々と声をかけられる
地区の人からの評判はとても良いみたいだ

コミュニティ、人付き合い…そんなワードが頭に浮かんだ途端
俺は緊張して足が前に出なかった
家に引きこもっていた時間が長かった分、こういう場が本当に苦手になってたんだ
どうしたらいいんだ、と顔が熱くなって変な汗が出そうだった

447: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 19:21:46.34 ID:iH3diVCK0
俺がどうしようもなくて輪に入らず立ち尽くしていると
女の子が向こうから「来なよ」と言って手を振った
俺はそれでもダメで、グズグズとして動けない

すると、女の子が輪から飛び出してきて俺の前に来た
「大丈夫だから」そう言って笑って、強引に俺の腕を引っ張っていった

女の子「〇〇さんとこで働いてる俺さんです」
俺「あ…初めまして。〇〇と言います」

449: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 19:31:43.51 ID:iH3diVCK0
「あー◯◯さんとこの人なんだ」「まだ若いねーよろしくねー」
と、輪の中に入ると瞬く間に会話が走りだした

近くにいたお婆ちゃんに「疲れたでしょ」と言ってチョコレートを渡された
「どこからきたの?」とか「若いのに行事に来て感心だ」
とか、地区の人はみんな暖かくて、本当に安心した

女の子が小声で「ね、大丈夫でしょ」と笑ってた

450: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 19:35:47.35 ID:iH3diVCK0
その時の笑顔が印象的で、俺はドキッとしてしまった
正直、俺はこの時に女の子の事を好きになったんだと思う

勇気が出なくて一歩踏み出せなかった俺を
腕を引いて輪の中に連れて行ってくれた
その瞬間のときめきが、忘れられずにいたんだよ

女の子がいたから、地区の人達とも関係を築けて
打ち解ける事ができた
女の子が、俺を助けてくれた そんな風に思ったんだよな

457:名も無き被検体774号+:2013/04/06(土) 21:48:20.05 ID:sXqxyigI0
ぐっときた

460: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 23:35:34.49 ID:iH3diVCK0
ごめん、ちょっと急用だった 再開します

草を燃やす焚き火をみんなで囲いながら
水筒に入った温かい緑茶をもらって団欒する
みんなが他愛もない会話で笑っていて

俺は自分がそんな場所に居合わせられる事に感動した
前の俺だったら考えられない
宿で働き始めたこと、女の子と出会ったこと

そういうことが全部作用して
こういう事が楽しめるくらいに、段々変化してきてたんだと思う

462: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 23:42:58.60 ID:iH3diVCK0
帰り道、方向がまったく一緒だったので女の子と2人で帰った

俺「なんかその…ありがとうございました」
女の子「何がですか?」
俺「あの…輪に入れてくれて…」
俺は恥ずかしいのに耐えながら、お礼を言う

女の子「ああ。だって何か躊躇してましたから…」
俺「いえ、ありがとうございます」
女の子「そうでしたか」
そう言うと女の子は、珍しく笑ってくれた

463: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 23:45:02.60 ID:iH3diVCK0
かつてなくいい雰囲気だったので、俺はここで勇気を出した
今しかない。

俺「あの、ご近所さんですし…良かったら連絡先教えてくれませんか?」
女の子「いいですよ」
そう言うと、女の子はすぐに携帯を取り出してくれた

やった、これはやったぞ!と思ったのも束の間
女の子「でも忙しいんであまりメールとかしませんよ」

464: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 23:48:22.41 ID:iH3diVCK0
メールする前からの念押しか…
これは脈なしか…?と少し落ち込んだけど
何はともあれ連絡先はゲットできた

これは凄い進歩だぞ!と思った
俺「全然大丈夫ですよ。ありがとうございます」
そう言って意気揚々とアドレスを交換した

少し前までニートだった俺が、もの凄く進歩だ
仕事も始めて、外交的にもなってきた
自己満足かもしれないけど、そう思えるだけで凄く嬉しかったんだ




465: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/06(土) 23:53:44.70 ID:iH3diVCK0
こうして、今では連絡もとることのない寂しい名前の並ぶ携帯の電話帳に
「カドワキ」という新しい名前が増えた
アドレス交換なんて、何年ぶりだったろうか。

丁寧に「さよなら」と言ってぺこっと頭を下げてカドワキさんは家に帰って行った
俺はなんだか久しぶりに胸がドキドキしちゃって、
宿の自分の部屋に帰ってから
ひたすら「よし!よし!」って言ってガッツポーズをしてた
馬鹿だったよなぁw

466:名も無き被検体774号+:2013/04/06(土) 23:54:47.88 ID:45Ld1ZsTI
wktk

468: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:10:14.77 ID:4WWO0I6y0
それから俺は、さらに宿の仕事を一生懸命やるようになった
真面目に働いて、沢山お客さんの笑顔見て、それが楽しかった
そして、早くカドワキさんに会いたい

次会ったらどんな顔をするかな?どんな事を話すかな?
そればかりが頭を過るようになっていた
やっぱり、恋のパワーって半端ないね
毎日を全力で生きる原動力になっていたもの

469: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:17:02.34 ID:4WWO0I6y0
だが、昼の休憩時間にフラついても
夕刻にケンの散歩に行っても、一向に会えなかった
学校だろうか?忙しいのだろうか?
色んな考えが頭をよぎった

そして例の清掃からけっこう時間が空いた日だ
俺はその日は休みをもらって、一日好きに過ごしていた
夜になって蒸し暑くて、散歩ついでにコンビニ向かったんだ

471: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:22:42.24 ID:4WWO0I6y0
煙草と飲み物を買って、ボーっと帰り道を歩いてた
街灯があまりなくて、夜になるとなかなか不気味な道なんだよな

そんな事考えてたら、前方から人が歩いてきて少し身構えた
こんな時間に一人で歩いてるって、けっこう怖い…

カドワキ「こんばんは」
俺「あ、こんばんは…」
思っていたのとは違う形でドッキリした
前から歩いてきたのは犬を連れたカドワキさんだった

472: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:28:20.07 ID:4WWO0I6y0
俺は思わぬ偶然に飛び上がるくらい嬉しかった

俺「こんな時間に散歩なんて…部活とかだったんですか?」
俺がそう言うと、カドワキさんは苦い顔をして「え?」と言った

カドワキ「私働いてるんですが…」
俺「え?」
そう、高校生だというのは勝手な俺の勘違いだったんだ
正直、本当に驚いた
見た目はもの凄くあどけないから、高校生だって言われても全然分からない

473: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:34:19.18 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「私はもう今年で20歳で…社会人ですが」
俺「そうだったんですか…」

そういえば、この前の清掃の時にお互いの事をまったく聞いてなかった
俺はなんだか怖くなった
カドワキ「さっき仕事から帰ってきて…だからこんな時間で」
俺「ああ、大変ですね…」

カドワキ「そういえば、〇〇さんは何歳なんですか?」
俺はこの質問に「え?」とどもってしまってなかなか答えられえなかった

475: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:38:44.15 ID:4WWO0I6y0
俺「24歳ですが…」
まずい、この流れはまずい…俺は凄く嫌な感じがした
少し前までの、恥ずかしい自分を必死に押し殺して隠してきた感情だ

カドワキ「24?若いから珍しいとは思ってたんですが…」
カドワキ「前は何かやってたんですか?」

来た。この質問だ。
この質問が怖いんだ よりによって自分が惹かれている異性に、この質問をされるなんて

476: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:41:00.94 ID:4WWO0I6y0
言うのか?好きな人に、
自分が「今までニートしてたんです」ってことを。
言いたくない、そりゃそんなの誰だって言いたくない

でも俺は咄嗟に上手い言い逃れも思い浮かばず、
カドワキさんを信じて、全てを曝け出すことにしたんだ
どうせ、いつかは絶対にバレることだしね。
そんなの、ニートをやっていた奴の宿命だろう 悪いのは全部自分だ

479: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:54:33.07 ID:4WWO0I6y0
俺「あの…大学を卒業してから…その…」
カドワキ「はい?」
俺「ちょっとの間ニートだったんです」

俺がそう言うと、彼女は目を見開いた
カドワキ「ニートって?あのニートですか?」
俺「はい、そうです」
カドワキ「え、本当ですか?」

480: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 00:57:07.57 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「うっそ…初めて見た…」
俺「ですよね」
彼女の表情がどんどんこわばっていく

カドワキ「信じられない…どうして?なんでそんな事したんですか?」
俺「それが…自分でも分からなくて…」

カドワキ「分からない?何ですかそれ?なにやってたか分かってるんですか?」
俺「ええ…」
彼女がどんどんヒートアップしていく
まずい流れだ

481:名も無き被検体774号+:2013/04/07(日) 00:57:41.27 ID:533LZ6bq0
カドワキ怖

483: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 01:00:55.38 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「それでここに来たんですか?なんで?なんでですか?」
俺「いや、とてもいい所で…」

カドワキ「夢とか、やりたい事とか、ないんですか?」
俺「いや、特には…あることにはあったんですが…」
カドワキ「なんですかそれ?」
俺も、どんどん感情的になる彼女に押される一方だった

カドワキ「結局、ニートができるだけの環境と余裕があったからですよね?」
カドワキ「必死にならなくても、それができるだけの自由があったんですよね?」

普段からは到底考えらないくらい、彼女は感情を剥き出しにした

485: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 01:06:41.50 ID:4WWO0I6y0
彼女は大声で「信じられない」と言って首を振った
俺は、もう呆然として見つめているだけだった

カドワキ「どうしてそんな恵まれていて…そんな事したんですか?」
カドワキ「あり得ないです」
そう言って彼女は大きく息を吐いた
俺は、ただ黙るだけだった

カドワキ「私、ダメです。ごめんなさい」
そう言い残し、彼女は駆け足で俺の元から去って行った

486: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 01:10:27.55 ID:4WWO0I6y0
怒涛の罵声を浴び、一人取り残された俺は
「まあ、そりゃそうだよな」って自分に言い聞かせるように考えた
ニートなんてしてた自分が悪いのだから

でも、あそこまで感情的になるなんて思わなかった
それも、好きになっていた女の子に、あそこまで言われると思わなかった
ニートとかそういった類のものに、何か特別な想いがあるのだろうか

流石の俺も、この日のカドワキさんからの言葉は
かなり心に重くのしかかってしまった

487: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 01:12:15.84 ID:4WWO0I6y0
ということで今日はこの辺で落ちます
明日あたりに終わらせると思います
見てくれてる人、ありがとうです。

488:名も無き被検体774号+:2013/04/07(日) 01:12:53.33 ID:zbKPD5x20
ニートってこんなに弾圧される存在なのか…

490:名も無き被検体774号+:2013/04/07(日) 01:17:22.76 ID:pjH2WrHg0
面白いな
明日も期待

502: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 17:36:10.29 ID:4WWO0I6y0
どうも
保守ありがとうです
続きいきますね。

504: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 17:40:22.98 ID:4WWO0I6y0
俺はとにかくショックだった
あそこまで言われた事はもちろん、
好きになった人に嫌われてしまった事実が、どうしようもなく嫌だった

こんな歳になってせっかく恋に落ちて、こんな終わり方をするんだなって
一人虚しくなった

俺はこの時初めて、実感的に、自分がニートだったことを
心底後悔して恨んだ
馬鹿やってたなぁ、って




505: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 17:48:12.16 ID:4WWO0I6y0
今思えば、あそこまで言うカドワキさんも少々変だけど
この時の俺は不思議と、全面的に自分がいけないんだって信じて疑わなかった

宿に戻ってから、玄関に置いてある灰皿の前でひたすら煙草を吸った
なんかもう、この世の終わりと感じるくらいに悲しかった

次の日から朝起きるのもひたすらしんどくなって
あと一歩でまたニート時代に戻る寸前だった
親父さんにも「元気ないけど大丈夫?」と心配されるくらいだった

506: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 17:57:30.17 ID:4WWO0I6y0
勝手に落ち込んで、元気をなくして周りに心配させる自分
そんな状態が本当に申し訳なくて、自分に嫌気が差した
あんなにも楽しかった宿の仕事の一つ一つが、
「なんで事してんだろう」に変わり始めて

「そろそろ辞めてしまおう」そんな思考になりかけていた頃だった
昼のヒマな時間、休憩してる時
滅多に鳴ることのない俺の携帯に着信があった

508: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:06:26.70 ID:4WWO0I6y0
俺「もしもし…」
カドワキ「あの…」
その声は、聞いてすぐに普通じゃないと分かるくらいにしゃがれ声だった

俺「どうかしたんですか?」
カドワキ「助けてくれませんか」
俺「え?」

509:名も無き被検体774号+:2013/04/07(日) 18:08:07.03 ID:hoRHwgr20
え?

510: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:12:59.85 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「いあ…その、なんというか…」
俺「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
カドワキ「体調を壊して…」
俺は突然のことだったので動転した

カドワキ「動けないんです…今…」
俺「は、はい…」
カドワキ「凄く近所なので…何か食べるものを…」
俺「持っていけばいいんですね?」

512: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:28:26.18 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「は…はい…」
俺「分かりました。てきとーに見繕ってすぐ行きますね?」
カドワキ「ごめんなさい…」

この時、様々な疑問が浮かんだ
何故俺なんだ?確かに至極近所ではあるが
他に頼る人は?親はいないのか?

しかしそんな事は気にせず、
とにかくすぐにカドワキさんの家へと向かうことにした

513: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:36:17.53 ID:4WWO0I6y0
俺はコンビニへと走って、
栄養ドリンクやバナナ、お粥のパックなんかを買って
すぐにカドワキさんの家へと向かった

自分が何をしていて、何故こんな状況になっているのか
よく分からなかったけど、必死になって走って
早く届けてあげよう、と思った
あんな事を言われた後だったのに、頼ってくれた嬉しさがあったんだ

なぜか、ドキドキしてる自分がいたんだよな

514: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:47:31.12 ID:4WWO0I6y0
コンビニの袋を下げて、必死になって走った
6月の終わりくらいでもう凄く熱くて、汗だくになった
カドワキさんの家の前に着くと、息が上がりきってクラクラした

「カドワキ豆腐店」と書かれた家の前は、シャッターが下りていた
豆腐屋だったのか、と一人で思って
急いで入れるドアを探す

回りこんで家の側面に入ると、玄関らしき扉があったので
インターホンを鳴らして「いますかー?」と必死に呼びかけた

515:名も無き被検体774号+:2013/04/07(日) 18:51:34.06 ID:zClEHoXu0
>>1はいい人だなぁ…..

516: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:55:11.75 ID:4WWO0I6y0
しばらく待っていると、古ぼけた薄茶色の扉が開いた
マスクをして、目を真っ赤にしたカドワキさんが出てきた

俺「大丈夫ですか…?これ、買って来ましたよ」
カドワキ「ありがと…」
そう言ってだるそうにして差し出した袋を受け取る
本当に虚ろと言った感じなので、俺は心配になった

俺「いや、熱何度あるんですか…?」

517: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:58:37.91 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「ん…40度くらい…」
俺「はい?そんなんじゃお粥なんか自分で作れないでしょう」
カドワキさんは「う~…」という返事ともとれない返事をしたので、俺は決心した

俺「嫌かもしれませんが、お粥くらい作ってきますよ?」
カドワキ「あ…え…」
俺「なんか食べないと本当に死んじゃいます」
カドワキ「う…」

519: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 19:02:00.04 ID:4WWO0I6y0
俺「お粥だけ作って、すぐに出て行きます…」
カドワキ「あー…」
俺「ちょっとだけ、入れてもらえますか?」
俺が意を決してそう言うと、
カドワキ「どうぞ…」
とだけ言ってフラフラと家の中に戻っていった

俺は「お邪魔します…」とだけ生真面目に言って、カドワキさんの家に入った

520: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 19:07:05.35 ID:4WWO0I6y0
カドワキさんの家の中は昔ながらの感じで
イメージとはまったく違った 何というか、年季が入っている
板張りの廊下は昼間なのに暗くて、なんだかひんやりしていた
もっと、小綺麗でおしゃれな感じにしてるかと思っていた

俺が居間に入ると、カドワキさんはその場に座り込んでしまった
カドワキ「ごめんなさい…」
俺「いいんです。すぐにお粥だけ作っちゃうんで、少しだけ待っててくださいね」

521: ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 19:13:46.16 ID:4WWO0I6y0
台所に続く玉のれんをくぐると、使い込まれたキッチンがあった
年季が入った家ではあったけど、いつも綺麗にしてるんだなってすぐ分かった

買ってきた栄養ドリンクやゼリーなどを冷蔵庫に入れていると
冷蔵庫に貼ってある一枚の写真に気付いた
あどけない少女と初老の男性が、ピアノの前で花束を持って笑っている
カドワキさんだろうか?そんな事を思ったけど

すぐに袋からお粥のパウチを取り出して、
今自分がやるべきことに専念することにした