人を自殺させるだけの簡単なお仕事です


 

606: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 16:55:46.93 ID:cFDsypt00
ほす

 

625: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 22:42:59.20 ID:p/vEXlSh0

当てもなく車を走らせました
途中で寄ったCDショップで青空が買った
「ラバーソウル」がカーステレオから流れています

山道に入ると、急カーブが多くなり、
貧弱な青空は左カーブに入るたびに
「わー」と運転席に倒れ込んできます
いつの間にかベルトを外しているのです

一度は間違えて、右カーブなのに
運転席方向に倒れてきました

「さて」と青空が切り出します
「いまから、身勝手な話をします」





 

629: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 22:59:38.21 ID:7HDnO2mMO
>>1さんキター!!!(=゜∀゜)

 

628: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 22:54:45.60 ID:QEokXViZO
お帰りなさい

 

626: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 22:47:08.41 ID:p/vEXlSh0

「私、これまでに、八人殺したじゃないですか。
そのことを後悔してはいるんです。

今思うと、あの人たちが具体的に
どんな悪さをしたのか私は知らないし、
仮に悪い人たちだったとしても、
私個人は全く恨みもなかったんです。

なんであんなことしちゃったんでしょう?
あの中にくもりぞらさんがいたとしても、
当時の私だったら殺しちゃったと思います。
そう考えると、やっぱりとんでもないことを
やらかしちゃったんでしょうね、私は。

……でもですね、九人目でやめて以降、
私の身に起きた一連の出来事については、
ひそかに、気に入ってさえいるんです。
それと引き換えにこれから起こる、
さみしい事態も考慮した上で、ですよ」

 

627: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 22:54:26.33 ID:p/vEXlSh0

「そのことについてなんだが――」
僕は以前思いついた仮説を青空に話します

「なるほど」と青空は言います
「確かに私も、疑問には思ってたんですよ。
そもそもどうして、標的に関する情報が
自動的に頭に浮かんでくるのか」

「他にどうとでも利用できそうなその能力を、
標的の殺害だけに注ぎ込もうとしてしまうのか」

「そうそう。今考えると、妙ですよね」

 

630: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 23:02:12.45 ID:p/vEXlSh0

「でも」青空はきっぱり言います、
「証拠はどこにもないんでしょう?
私たちを操ってる人がいるっていう」

「そうだけどな、そんなこと言い出たら、
極端な話、俺たちの他殺にも証拠なんてない。
俺たちは自殺させたと思い込んでるだけで、
実際は、彼らがきちんと彼らの意志で
そうしていたのかもしれないんだ」

「そして何より」と僕は言います、
「どんな理由であれ、青空が自分の意志で
人を殺したりするとは思えないんだ」

「八人殺しました」と青空は言います

「ナイフは人を殺さない。ナイフで人を殺すんだ。
どっかの誰かが、青空で人を殺したのさ」

 

631: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 23:08:23.06 ID:p/vEXlSh0

「都合よく考えようぜ」と僕は続けます、
「俺たちはおそらく、人を殺したっていうことから
気を逸らそうとするあまり、逆に必要以上に
責任を負おうとしてしまっていた部分がある。

だが、特にならない殺人をする理由がどこにあった?
いくらでも自分に利益をもたらせられるはずの
この能力を、どうして活用しようとしなかった?

おそらくこの能力には制限がかかっていたんだ。
俺たちが向こうの意にそぐわない行動をしないように」





 

632: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 23:13:36.55 ID:p/vEXlSh0

「うーん、もしそうだとしたら、嬉しいんですけど」
青空はうつむいて、少し間を置きます
「でも、なんにせよ私は、だめですよ。
八人殺したおかげでくもりぞらさんに会えた、
あーよかったって考えてるようなやつですから」

「違う、八人で止めたから俺と会えたんだ」

青空は困ったような笑顔を浮かべます
「確かに、決してないとは言い切れない話です。
ですが、それでも犯人が確定するまでは、
ひとまず私がその責任を負うべきだと思うんですよ」

「素晴らしい心がけだな。犯人が分かるまでは
ひとまず殺されておこうってわけか?」

「だって、しかたないじゃないですか」

 

653: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 10:27:56.04 ID:GGIh9Ptr0

「ひだり」と青空が突然言います
言われなくても僕だって気付いています

車を停めて、外に出ます
視界の上半分が青い空と白い雲なのに対し、
下半分は黄色と緑で埋め尽くされています
大きな白い風車が、いくつか回っています

「ひまわりもあるし、風車も回ってるし、
とってもくもりぞらさん的空間ですね」
青空が僕の隣で言います

 

654: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 10:32:56.91 ID:GGIh9Ptr0

こんな光景を、昔見たことがあるような気がしました

制服の女の子とスーツの男
妙にちぐはぐな印象を与える二人が
並んでひまわり畑を見下ろしているのです

もちろん実際はそんなものを見たことはなく
たぶん単純に、その光景があまりにも
僕の好みに適合していただけなのでしょう

 

655: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 10:42:06.52 ID:GGIh9Ptr0

青空は指折り数えます
「んーと、メリーゴーランド、観覧車、
オルゴール、時計、ひまわり、天体」

そして、「ですよね?」という目をこちらに向けます

「そうだ」と僕はうなずきます

「それと、ゆっくり回転する私」

「ああ。別に回転しなくてもいいけどな」

青空は僕の目を見たまま固まります
「おー……不意打ちですね」

「こういうのは逆に困るだろう?」

「困ってます。照れてます」
まわんなくてよかったのかー、と青空はひとりごちます

 

656: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 10:51:44.02 ID:GGIh9Ptr0

「ひまわりは達成したので、次にいきましょう」

「全部回る気なのか?」と僕は訊きます

「そうです。ゆっくり回るものを、
ひとつずつ、ゆっくり回りましょう」

それは確かに、理想的な過ごし方でした
「お前はそれでいいのか?」と僕はたずねます

「それがいいんですよ。好きなものばかり見て、
くもりぞらさんは生に執着しちゃえばいいんです。
死ぬのいやだーって私に泣き付けばいいんです」

「なるほどな」

 

658: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 11:00:23.60 ID:GGIh9Ptr0

からかうように、青空が軽く体当たりしてきます
「何だか、くもりぞらさんらしくないですね。
決定権は、いつでもあなたにあるんですよ?
したいと思ったことをすればいいじゃないですか」

「いや。もう俺も、あのうさんくさい力は失ったんだ。
もう青空を操ることはできない。良かったな」

「そんなこと問題になりませんよ、私、
あなたの言いなりになるの、癖になっちゃってますから」

「そうか」僕は納得します、「まわれ」

青空はその場でくるくる回りはじめます





 

701: 1 2012/08/10(金) 20:03:21.21 ID:Z/us+aeL0

二時間ほどで、青空の言うデパートに到着します
屋上遊園地などという時代錯誤的なものが
未だ存在していたことに驚きました
外装も城みたいで、大時代的です

「未だっていうか、新しく出来たんですけどね。
時代錯誤がむしろ格好良いみたいな
最近の風潮に合わせて作られたらしいです」

ここにはくもりぞらさんの好きなものが
いっぱいあるんです、と青空は言います

地下駐車場に車を停めると、店内に入ります
天井は呆れるほど高く、冷房ががんがんきいています
自分が縮んだような気になる場所でした
まだ夢が売っていた時代のデパートみたいです

 

702: 1 2012/08/10(金) 20:09:58.31 ID:Z/us+aeL0

良い雰囲気の雑貨屋を見かけると
青空は僕を置いて中に入っていきました
ついていこうとすると、追い払われます

「くもりぞらさんはメロンでも見ててください」

青空なりにやりたいことがあるようです
仕方がないのであたりをうろつきます

デパートに来るのは久しぶりでした
おかげで、子供の頃の記憶が
そこにそのまま残っている気がしました
もちろんこの場所を訪れたことが
あるわけではないのですが

 

703: 1 2012/08/10(金) 20:14:37.07 ID:Z/us+aeL0

エントランス付近のベンチに座って青空を待ちます
行き交う人々は、みんな幸せそうに見えます
実際、ここを訪れるような人は、ある程度裕福で、
「余計なこと」に金を割く余裕のある人たちです

子連れの客が多く、どこの子供も、
絵本の中から出てきたような感じです
立派な服、整った顔立ち、綺麗な体つき

彼らの将来を考えて、自分の現状と比較し、
僕は勝手に落胆して溜息をつきます

 

704: 1 2012/08/10(金) 20:19:48.10 ID:Z/us+aeL0

いつの間にか青空が脇に立っています
「さ、いきましょう」と青空は言います
何をしていたのかは聞かずにおきます

エレベーターが混んでいる様子だったので
いつも見るものより数段長いエスカレーターに乗ると
青空は壁に貼られた注意書きを指差しました

「黄色い線の内側では手を繋いでください、ですって」

「お子様と手を繋いで黄色い線の内側に、な」

「似たようなものです。私、年下ですから。
ほら、黄色い線の内側ですよ」青空は手を差し出します

僕はその白くて細い指をそっと握ります
すかさず青空がぎゅっと握り返してきます

 

705: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 20:25:20.89 ID:wlySJbwn0
見てます
支援

 

706: 1 2012/08/10(金) 20:28:38.01 ID:Z/us+aeL0

「あれみたいですね、恋人みたいです」
僕の顔を見上げて青空が笑みを浮かべます

「これだけじゃあ兄妹と似たようなもんだ」

「傍から見ても、そう見えますかね?」

「ああ。どう見ても仲の良い兄妹だ」

「これでも?」青空は自分の指を
僕の指の間に入れて、握り直します

「おいおい」と言いつつも、
僕はその手をしっかり握り返します





 

707: 1 2012/08/10(金) 20:35:51.94 ID:Z/us+aeL0

僕らが屋上遊園地に到着した途端
場内に大きな音楽が流れ始めます

真上にある時計台からの音のようです

「からくり時計ですね」と青空が言います
「10万人目の来場者になったかと思いました」

「雨だ」と僕は手を差し出して言います
今はまだ弱いですが、徐々に強くなる類の降り方です

「雨ですね。じゃ、さっさと乗っちゃいましょう」
メリーゴーランドと観覧車を指差して青空は言います

濡れた石畳が遊具のカラフルな光を反射して
屋上はクリスマスみたいなことになっています

 

708: 1 2012/08/10(金) 20:40:58.97 ID:Z/us+aeL0

メリーゴーランドは、よくある子供騙しの
チープなものではなく、凝った造形のものでした

念のために僕は言っておきます
「俺は見るのが好きなわけで、
別に乗りたいわけじゃないんだよ」

しかし青空は二人分のチケットを購入し、
結局僕たちは馬車に向かい合って座ります

合図が鳴り、馬車が動き出します
青空は身を乗り出して、僕に言います

「『とても酷いやり方』でいつか殺す、
くもりぞらさんはそう言ったわけですけど」

「言ったなあ、そういえば」

「どんなやり方なんです?」

 

709: 1 2012/08/10(金) 20:46:01.84 ID:Z/us+aeL0

少し考えてから、僕は答えます
「そうだな。まず……簡単に殺しはしない。
時間をたっぷりかけて、じわじわ殺すんだ。
死ぬときに未練や後悔が残るように、
できるだけ生に対する執着が増すような、
そういう暮らしを、長期に渡って送らせる」

「時間をたっぷりって、いつごろ殺すんです?」

「幸福慣れするのに時間がかかりそうな
相手だからな、慎重にいく必要がある。
十年、二十年、場合によっては、百年でも」

「私は時間かかりますよー」、青空が得意気に言います

Comments ( 5 )
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  • 山田

    これは集団ストーカーの自殺誘導
    ですね。実行者の狂気を感じます。
    地獄に墜ちるでしょう。

    • 匿名

      意味不明w

      • 匿名

        間違えた

  • 結城

    こういう終わらせ方もありなんだと思いましたね。最後の言葉を予想して楽しめる、ひと粒で二度美味しいお話。

  • 最高に面白かったっす
    鳥肌が立ちました