「そして、いつか。あなたに、聞いたでしょう。人生をやり直せたら、って」
「でも、あなたは強かった。何もかもを忘れていた。とっても幸せそうだった」
「わたしはあなたを愛してた。だからこそ、わたしはそのままにしようと思った」
「でも、その前にわたしは最後にあの部屋へ行って、思い出を回想してたのよ」
「懐かしかった。涙が零れた。一つ一つ、あなたとの思い出を噛み締めていた」
「そしてあなたと永遠に別れる決心をした。そんなときに、後ろから足音よ」
「そこに恐らくあなたが来た。急いでわたしは逃げ帰った。本当に驚いたわ」
「で、思い出させてはいけない。そう思った。だからあのマンションに通った」
「次の選択を迫られて、全てを思い出す前に、あなたの人生を確定させるために」
「わたしに近付いて思い出さないように。そう思って、あなたを避け続けていた」
「僕は、君に嫌われたと思ってたよ」
「そんなこと、あり得ない。わたし、あなたのこと、愛しているもの」
「最後の最後まで、聞き届けては貰えなかった。けれど、あなたは思い出した」
「思い出して。神様にまで背いて、ここに来た。そして約束を果たしてくれた」
「なら、今度は、わたしがあなたに告白しないと」
「わたしは、あなたのことが、好きです。だから、わたしと、付き合ってください」
あと 124 秒です。
ニア ・おわる
「よろしくお願いします」
こうして、僕らは晴れて美女と野獣のような関係の恋人となったのである。
しかし残っているのは次の選択についてである。だが、もう決まっている。
僕らは互いに人生の酸いも甘いも噛み分けたことになるというわけだ。
十五歳の身体で精神年齢四十五歳である。おじさんとおばさんである。
僕らの選択のすれ違いから、最終的に幸せを掴み取ることができた。
もし僕が彼女と同じ選択をしていれば、最終周ではどちらも他人だ。
そして彼女が僕の事を覚えていたからこそ全ては成立に至ったのだ。
それにしても思い出してみれば彼女のぼろがかなり出ているのである。
同様に執事の発言もかなりぼろが多いのである。気付かない僕も相当。
僕は最後に弱さを知り、全てを知っている彼女がいたからこうなった。
彼女が僕の為に行動し、それに違和感を覚えなければこうはならない。
僕のような不細工が言うのもなんだが、非常にロマンティックである。
「あなた、本当に不細工ねえ。もうちょっとなんとかならないかしら」
「僕は仮にでも彼氏なんだけれど。オブラートぐらい知ってほしいな」
「仮にじゃなくてわたしの彼氏よ。でも、わたし、このままじゃ嫌よ」
「僕だって嫌だよ」
あと 58 秒です。
ニア ・おわる
残りの言いたいことと言えばこの現実はそろそろ終わりを迎えるということだ。
せっかく晴れて恋人同士になったのにすぐ終わりである。出番が少なすぎる。
感動の一瞬は本当に一瞬だったと嘆く他ない。三文小説でもこれはないのだ。
「わたし、もう、精神年齢すごいわよ。もう、なんていうか。すごい」
「君にしては随分語彙がすごい。もう言葉にできないほどにはすごい」
女性に精神年齢であろうとも年齢を聞くのは野暮というものだ。
僕のようないい男はその辺の分別がついているのだと言いたい。
「でも、この現実が続いても、結局同じ高校でもないじゃない。そんなのつまらない」
「それに、数年間は話してないし、デートもしてない。こんな青春は消えるべきなの」
「だからこそわたしは次の人生に賭ける。相思相愛以心伝心。やることわかるかしら」
「いくら僕が馬鹿でもその辺は分かるよ。君って割と尽くすタイプなのかもしれない」
「そうよ。尽くすわよ。けど、浮気したら殺すわよ。割と本気。次はやり直せないわ」
あまりに恐ろしい。僕も彼女も次の人生はやり直せない。いや、それが普通なのだが。
家に帰って包丁で腹部に穴を開けられればそこから魂も抜け出るというものである。
「じゃあ、わたしの方が多分先だろうし。お先に。行ってきます彼氏」
謎の語尾を残して彼女は先に消えてしまった。完全に消失と言っていいくらいに。
本当に神の意図であるから、神隠しである。見てはいけない世界を見た気がする。
ああ僕もそろそろ消えるようだ。後数秒だろうか。僕は大きく息を吸って言った。
「行ってきます彼女」
あと 0 秒です。
ニア ・おわる
G A M E C L E A R
「おかえりなさいませ、坊ちゃん」
「ただいま」
「わたくし、感涙しておりました」
「互いが互いの幸せを、互いの人生を賭した結果の結末が、このようであるとは、と」
「お母さんが言った通りだ。ちょうど四十五歳になって僕はもてたってわけか」
「そして、唯一の。よわくてニューゲームをクリアした方と言えましょう」
「ありがとう。またいつかコーヒー飲みたいな。僕のこと忘れないでほしいな」
「もちろんですとも。けれど、もう、二度と会うことはございませんことを祈ります」
「さすがにもう踏んだり蹴ったりボールにされたりは勘弁だ。最後は幸せだったけど」
「では、そろそろお時間となります。坊ちゃんの想い人は、先に向かわれましたよ」
「うわ照れるなあその言い方。ちょっとテンションあがってきたかもしれない」
「ああそうじゃないや。選ばないとね。まあ決まってるんだけど。これにする」
「ほう」
「また、珍しい選択ですな。どうして、こちらを?」
「そりゃだって、僕はどこだって彼女がいるから。彼女だって。やばいな」
「そうじゃなくて。僕はどこでだってやっていけるんだ。いい男だから」
「親孝行の結果がこれだよ。どの親も、僕の事を愛してくれてたんだから」
「だから、僕はどこに行ったって後悔しないわけなんだ。完全な未知だ」
「それに、忘れてたら忘れてたで、それはまたありじゃないかと思えるんだ」
「もちろん、親のことは絶対忘れない。でも、その他の事はいいかなって」
「というと、あの、想い人のことでございますか。それまた、どうして」
「だって、またやり直せるんだ。好きになるってことを、最初から全部を」
「僕は弱くも強くも普通でもある。人生経験豊富なわけだし、大丈夫だよ」
「じゃあ、そろそろ僕は行ってくる」
「そんで、やり直してくるよ」
「初恋を」
ニア・ニューゲーム
・つよくてニューゲーム
・よわくてニューゲーム
おわり
「よわくてニューゲーム」は以上です。
読んで頂いた方、本当にありがとうございました。
今まで読んだSSの中でトップクラスの面白さだった!
本当に乙!
とても面白かった
本当に素晴らしいSSだった
まさか45歳でモテるが伏線とはね
ガッ!と読めた良作でした!
あんなとこいくの嫌よとか迷わずスイッチを押したとかすげー伏線じゃねーか!!
すげえな。ここ最近一番のSSだわ
最後は弱くてを選んだの?
最後はニューゲームです。全くのランダム。
面白すぎた!
こんなにきれいに終わるとは思わなかった
やりなおした後のお母さんはどうなってるんだろう?
後味がスキッとしてて素晴らしい
今まで読んできたSS中で
一番面白かった!!!!!
ありがとうございました!!