絵を描き続けたら人生救われた　②

けっこう怪我したｗでも楽しかった。

部長「何よｗ　改まっちゃってｗ」
俺「俺大学多分やめます」

部長「こんな言い方してごめんね。でももしそれで大学やめて美術の先生になれなかったら？
なれたとして、一生続けられるかな。」

部長は芸大受験に何回か失敗してからうちの大学に来ていたから、
学年一個上とは言え、歳は離れていた。

軽い。予想外の反応だった。

友人「俺の友達で学芸とか教育系の美術科？受けてここに来た子とかいるよー」
俺「え、本当に？」

その子は石田ゆり子にちょっぴり似ているので石田と呼ぶ。

美大に遊びに行った時に、構内で出くわせば、「あ、ども…」くらいの感じだった。
それでもだんだん慣れて話すこともあったが、とにかく「板尾ありき」の存在だった。

板尾が亡くなってからは会ったことはなかった。

だから記憶にも割と残っていたのだ。

そう、板尾の友人は、俺とそに子と板尾が美大巡りの約束をしたことを
知っている唯一の人間だった。
あの時の計画が、こんな形で実行されるとは。

でも俺は楽しみだった。そに子もきっと喜ぶだろう。

そに子「どうしよう。スケブ持ってくよね？あとは…」
そこまでワクワクしてくれると、こっちも嬉しい。
良かった。

そして美大に行った。俺はそに子と二人で向かった。
正門の前に友人が立っていて手を振った。
友人「こっちこっちー」

板尾のおかげでこの子にも会えたし…
そんな感傷モードに浸っているうちに美大探訪は過ぎていった。

そに子は実家暮らしなのでそこまで料理はできなかった。
俺は、女性陣は可愛いなあ、なんて心のなかで思っていた。

この日話していて分かったんだが、石田さんと俺は
地元が一緒だということも分かった。これには本当に驚いた。

同じ地元に受験、板尾の話…共通の話題が尽きることはなく、
石田さんとは本当に長い時間話している気がした。

俺「……」

兄「諦めろ。母さん生きているウチに自立して、立派なとこ見せるんだぞ」

この時俺は号泣していた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう？
自分が世界で一番不幸なんじゃないか、って思うくらいだった。

諦める。そして真面目に就活して、絵は趣味にする…
そう、決心した。

俺は石田さんに細かい経緯とかも伝えた。
今思えば、石田さんにはそんなに込み入った事情まで言うべきじゃなかったって反省してる。

でもこういう時って、本当に誰かに話したくなるんだよな。
俺辛い、辛いんだよ～って。

なんて言ったらいいか分からなかった。
上手く話せなくて何時間くらいそこに座っていたんだろう。

石田さんは強かった。表情一つ変えなかった。覚悟もしていたのかな。

石田さんは笑って、
石田「じゃあさ、儀式しようよ！」
と言い出した。

俺「儀式…？」

正直、その時俺は気持ちが持って行かれるんじゃないかと思った。

石田「恋人がいる人に告白するなんて、あたし卑怯だー」
石田「そに子ちゃんはいい子だもんね、あたしもがんばる」

何も言えなかった。

心にぽかんと穴が開いたみたいだった。

兄「地元の友達にでも会ってきたのか」
俺「ま…そんなとこ…」

先生は初老のじいちゃんだ。
これが田舎の地元のいいところだ。

地元に戻れば、家族みたいな人がたくさんいる。
俺は元気をだそうと思った。

しかしリウマチがあったので、しばらく自宅で療養することになった。

あまり大学を休み続けるわけにもいかなかったので、俺は実家から戻ることにした。

逃げていたのだろう。向き合うのが辛かった。

絵を描く意味が分からなかった。絵を描く必要があるのか。
そう考えだした。