忘れられない夏がある


 

42: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 00:39:13.05 ID:P91s7vxQ.net

少し走ると、道の脇にくすんだ赤色の鳥居を見つけた。
神社だよな? と思って自転車を止めて立ち止まると、何やら音が聞こえた。

「キィィィン」という気持ちの良い金属音と、少年たちの歓声のような声。
この奥で野球でもしてるんだろうか?
少し気になって、その場に自転車を止めて鳥居をくぐってみる。

両脇に木々が生い茂る階段を登ると、そこには大きな広場があって、
近所の小学生だろうか、10人ほどがわあわあ言いながら野球をしていた。





 

43: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 00:42:42.93 ID:P91s7vxQ.net

とても楽しそうに駆け回っていたので、
それを遠くから眺めて、「宿に戻ったら俺もあいつらと野球しようかな」
なんて考えてニヤついてしまった。

やろうと思えばクラスのみんなと何だってできる。
そんな時だったんだよな。

すぐに我に返って、自販機は置いてないかと探してみる。
広場の方にはないようなので、俺は奥にある境内の方へと向かった。

 

44: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 00:46:23.70 ID:P91s7vxQ.net

境内の方へと歩いて行くと、少し様子が変だった。
何故か妙に煙草臭い。
まずいなぁ、地元のヤンキーのたまり場にでも来ちゃったかな、と少し不安を覚える。

しかしそこにいたのは、俺の想像とは違うものだった。
髪を明るい茶髪に染め上げた女の子が、拝殿の階段に腰掛けている。

白のカットソーにショートパンツというラフな格好で、
歳は俺と同じくらいか年下か……

そして、煙草をくわながら俺のことを睨んでいた。

 

45: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 00:48:52.66 ID:P91s7vxQ.net

思わず目が合ってしまい、たじろぐ。
時間が止まったように、周りの木が風に揺れてカサカサ…と鳴る音が聞こえた。

茶髪の子「何?」
俺「いや、別に」
女の子はフゥ、と煙を吐くと俺の方を見て続けた。

茶髪の子「見たことないんだけど。この辺の学校の人じゃないっしょ?」
俺「ああ、まあそうだね。東京の高校から来たから……」
茶髪の子「え、東京! じゃあもしかしてめっちゃ頭良いとか?」

 

46: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 00:50:14.57 ID:yXGH67rk.net
神社が出てきたから、清楚な女の子が出てくると思ってたのに裏切られた
やられた…

 

47: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 00:52:28.89 ID:P91s7vxQ.net

茶髪の子「え、すごくない? あたし東京の人と話すの初めてかもww」
俺「いや、そんなことないけど……」
女の子が、思いのほか可愛い笑顔を見せたので、少しドキッとした。

茶髪の子「東京の人がこんなとこに何しに来たの?」
俺「えっと、受験勉強の合宿というか……そんな感じ」
茶髪の子「勉強の合宿? なにそれ。意味わかんないね」

俺「うん、俺も意味分かんないんだよww」
雰囲気が壊れないように、俺は話を合わせてみた。

 

48: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 00:55:26.96 ID:P91s7vxQ.net

茶髪の子「意味分かってないの? ウケるんだけどww」
俺「マジ意味分かんないよww」
笑いが起きて、少しだけ打ち解けてきている気がした。

俺「そっちこそ、こんな所で何してるの?」
茶髪の子「うーん、別に何って……」
俺「一人でここに来たの?」
茶髪の子「そうだけど」

答えると、女の子はまた遠くを見つめて煙草を吸い始めた。

 

49: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 00:58:32.25 ID:P91s7vxQ.net

変な間ができてしまって、俺はその場で黙って女の子を見つめるだけだった。
何を話そうにも、何も浮かんで来なかった。

茶髪の子「そういえば聞いてなかったけど」
俺「なに?」
茶髪の子「何年生なの?」
俺「俺は高3だけど」

茶髪の子「ふーん、高校3年か……」
茶髪の子「じゃ、受験生だ。あたしと一緒だね」
そう言って女の子はフウ、と煙を吐く。

 

50: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:00:09.39 ID:P91s7vxQ.net

俺「あれ、君も高3なの?じゃあタメだね」
そう言うと、女の子は笑ってかぶりを振った。

茶髪の子「違うよ。あたしは中3だから」
その言葉を聞いて、心底驚く。
俺「え、マジ!? じゃあ俺の3つも下じゃん」

女の子はいたずらそうに笑って煙草をくわえる。
茶髪の子「はは、そうなるね。ごめんねガキで」





 

51: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:05:18.44 ID:P91s7vxQ.net

その笑顔が妙に印象的で、初対面だったのにも関わらず、
俺はその子に惹かれるような、でもそうじゃないような、不思議な感覚だった。

俺「いや、別に歳とか関係ないでしょ」
茶髪の子「え、良いこと言うじゃん。やっぱ頭の良い人は違うねー」

そう言ってまた笑うから、俺も一緒に笑ってしまった。
今までの人生で、話したことのないタイプの女の子だった。

 

52: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:08:23.52 ID:P91s7vxQ.net

彼女の後ろに目をやると、何やらギターケースのような物が置かれていた。
俺「それは、ギター?」
茶髪の子「そうだけど」

その答えに少しだけ気分が高まった俺は、
「何か弾かないの?」と水を向けてみた。

女の子は「うーん」とひとしきり悩んだ後、
「恥ずかしいからな」と言って開きかけたギターケースを閉じてしまった。

「何か聴かせてよ。お願い!」と頼み込むものの、
女の子は「でもなぁ」と困惑の表情を浮かべるだけだった。

 

53: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:11:50.11 ID:P91s7vxQ.net

俺が引き下がって、「それなら仕方ない」と諦めると、
気が変わったのか、「一曲だけなら……」と了承してくれた。

茶髪の子「ほんと下手だから、そこは期待しないで」
と俺に念を押し、ケースからギターを取り出した。

ケースから鮮やかな青色のギターが出てきた。
楽器に疎い俺にはそれが安いのか高いのかも分からなかったが、
ボディに「THE BLUE HEARTS」というステッカーが貼ってあるのは分かった。

 

54: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:17:31.90 ID:P91s7vxQ.net

女の子は一回深呼吸をすると、勢い良く演奏を始めた。
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!!
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!!

俺「終わらない歌?」
アンプにも繋がっていない渇いた音だったけど、「THE BLUE HEARTS」のステッカーも相まってか、
俺はすぐにピンときた。

茶髪の子「すごいすごい! よく分かったね!」
女の子は演奏を中断し、瞳を輝かせて俺を見た。

 

55: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:20:46.97 ID:P91s7vxQ.net

俺「うん、そのステッカーも貼ってあったし、俺もブルーハーツ好きだからさ」
茶髪の子「うっそー! マジで!」
嬉しくて仕方ないとばかりに、女の子は体を上下に揺らした。

俺「いや、意外だったわw まさかブルーハーツを弾くなんて」
俺「俺も大好き。最高にカッコイイよな」
そう言うと、女の子は「うんうん」と何度も頷き、
「マジでカッコいいよね! こんなバンド他にいないよ」と上機嫌に言った。

俺「ふふふ」
茶髪の子「どうしたの?」
俺「いや、なんでもない」
ブルーハーツの話題になってから、女の子の表情が瞬く間にカラフルになった気がして、
俺は思わず笑ってしまった。

 

56: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:23:48.73 ID:yXGH67rk.net
ブルーハーツかよww
懐かしいなぁ~名曲多いよな

 

58: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:25:24.62 ID:P91s7vxQ.net
とりあえず、今日は一旦ここまでにします~
続きはまた明日の夜書きにきますね。
よろしくお願いします!

 

60: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:27:08.07 ID:6nfg7rYE.net
>>58
ワクテカして待ってるよ~

 

59: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:26:10.98 ID:6nfg7rYE.net
甘酸っぱい
いいね~

 

61: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 01:30:52.36 ID:yXGH67rk.net
おつおつ!
今後の展開が気になるが、ゆっくりやってくれ
楽しみにしてるよ





 

62: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 08:37:26.06 ID:yXGH67rk.net
保守

 

64: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 16:03:43.46 ID:b9P1XceC.net
追いついた
なかなか読ませるね
夜待ってるぞー

 

65: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 19:47:48.86 ID:qI6gRN7E.net
しえん保守

 

66: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:11:58.51 ID:P91s7vxQ.net
こんばんは
続きを書いていこうと思います

 

67: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:16:53.33 ID:P91s7vxQ.net

茶髪の子「周りにブルーハーツなんて言っても、知ってる子ほとんどいないんだよ」
茶髪の子「だから超嬉しい!」
興奮を抑えきれないようで、身振り手振りで自分の感情を表す女の子。

俺はやっぱりそれがどうも微笑ましくて、くすっと笑ってしまう。

俺「まあ、中3の女の子で聴いてるのは珍しいかもねぇ。友達が知らなくても無理ないよ」
茶髪の子「まあ、友達なんて……」
俺「ん、なんて?」
女の子がぼそっと囁いたが、よく分からなかった。

茶髪の子「ううん、別になんでもない」

 

68: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:18:20.33 ID:b9P1XceC.net
待ってましたー

 

69: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:21:33.85 ID:P91s7vxQ.net

俺「ねえ、もう一度『終わらない歌』弾いてくれない?」
そうリクエストすると、女の子は「いいよ」と笑って快諾してくれた。

ジャジャ!ジャジャ!ジャージャージャーン!というあのイントロから始まり、
女の子は体を揺らしながら夢中で演奏を始めた。

女の子の演奏は、お世辞にも上手いわけではなかった。
けど、すごく気持ちが込もっているというか、その演奏には妙に鬼気迫るものがあった。

 

71: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:25:05.60 ID:P91s7vxQ.net

中盤まで弾き終わったところで、女の子はピタリと演奏をやめ、
顔を上げて俺の方を見据えた。

茶髪の子「ねえ、歌ってみる?」

俺「え? どういうこと?」
俺の質問に対し、女の子はにやりと笑みを浮かべ、
「やっぱりボーカルが必要だと思うの。ヒロトだってギター持たないで歌ってるし」

その主張に、「なんだその理論は」と思ったが、俺もまんざらではなかった。
そもそも俺の方からギターを弾くことを頼んだんだし、断りづらい。

 

72: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:30:01.65 ID:P91s7vxQ.net

茶髪の子「ね、途中まででいいからさ」
女の子の期待の眼差しが俺に向けられる。

過去に一度ギターに挑戦したが上手く行かず挫折した俺は、歌うことなら好きだった。
それに、ブルーハーツならカラオケの自信曲である。

俺「いいよ、歌う」
俺「ヒロトほどにはいかないと思うけどね」
そう言うと女の子は、「当たり前じゃん」と吹き出して笑い、
「じゃあ、いくよ?」と首を振って拍子をとった。

 

73: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:34:34.90 ID:P91s7vxQ.net

あの聞き慣れたイントロのメロディーが、渇いたギターで奏でられる。
歌うとなると緊張して、その音色はか細く、遠いものに感じられた。
でも、染み付いたものは裏切らなかった。

「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」

ばちーんと出だしが噛み合って、俺も女の子も驚いて顔を見合わせた。
途中で何度かテンポが合わず手こずる部分もあったが、
止まることなく2回目のサビまで歌いきったところで、女の子は演奏を止めた。

 

70: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:24:53.87 ID:ZfqRMGV7.net
ただただきもい
ブログでやれよ

 

74: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:35:05.63 ID:b9P1XceC.net
俺は見てるし気にしないで続けてくれ
支援

 

75: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:38:54.50 ID:P91s7vxQ.net

演奏を止めるやいなや、女の子は立ち上がった。
茶髪の子「すごい! 上手いじゃん!!」
俺を捉えた彼女の瞳には、無数の光芒が宿り、輝いていた。

そんな純粋な賞賛をもらって、思わず照れてしまう。
俺「よく歌うってだけ。慣れてるんだよw」
茶髪の子「そうは言っても!」
女の子は、俺の話を遮って一生懸命に主張した。

茶髪の子「あたしの下手な演奏でここまで歌えるなんて、すごいよ!」





 

76: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:43:13.06 ID:P91s7vxQ.net

茶髪の子「それに」
茶髪の子「あたしの演奏で誰かに歌ってもらったの初めてだから」
茶髪の子「すっげー嬉しかった」
女の子はそう呟くと、「ひっひひ」と笑った。

その笑顔は可愛かったが、とてもあどけなくて、今にも壊れそうな危うさも感じた。
彼女と会ってから初めて「やっぱり中3の女の子なんだ」と実感した。

それに立ち上がった女の子は俺よりも一回り小さく、
ゴツいギターが妙にアンバランスに見えた。

 

77: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:46:05.26 ID:P91s7vxQ.net

そんなことを思って少し戸惑いながらも、
俺は「ありがとう」と丁寧にお礼を言った。

女の子の興奮は収まらないようで、「ねえねえ」と食い気味に話しかけてきた。
茶髪の子「ロマンチックは? ロマンチックも歌える?」
俺「うっわ! 渋いね!」

予想外の曲目が出てきて、少々面食らった。
でも、本当に好きなんだって思って、嬉しくもなった。
俺「でも、あの曲はリズム隊がないとさすがに難しいんじゃないかなぁ」
茶髪の子「一回! 一回だけ……」

上目遣いでせがまれて、俺もひくにひけなくなった。

 

78: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:47:02.84 ID:P91s7vxQ.net

俺「分かった。じゃあ一回だけ」
そう言うと、女の子は「やった!」と笑顔になり、
立ったままギターを構えた。

二人で呼吸を合わせて、「いっせーの!」の掛け声と共に、
「シャラララ…」と歌い始めた。

意外にも調子が良く、俺が指で拍子をとると、
女の子は笑ってそれに合わせてくれた。
楽しくて、俺も思わずのめり込んで歌ってしまった。

 

79: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:49:04.41 ID:P91s7vxQ.net

途中でリズムが合わなくなり、「ごめん」と歌を中断すると、
「良かったのに!」と地団駄を踏まれた。

茶髪の子「それにしてもやっぱり上手い! 練習してるの?」
俺を捉える彼女の瞳は、瑞々しい光で満ちていた。

俺「いやぁ、好きでよく歌うだけだから。そんな練習なんてw」
茶髪の子「途中、ちょっとヒロトっぽかった!」
俺「そんなわけないだろーw」
なんてくだらないやり取りをして、二人で笑ってしまった。

 

80: 1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:53:24.98 ID:P91s7vxQ.net
ごめんなさい、今日は一旦ここまでにしようと思います
続きはまた明日書きにきますね~

 

81: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/14(水) 23:54:49.78 ID:C1RiwOih.net
明日待ってる!
アンチはスルーで

 

83: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/15(木) 02:16:50.63 ID:Wf7RYCku.net
追いついた
夢中になって読んだわ
青臭くてむずむずするが、ぜひとも完走してくれよな