保守
続きを書いていきたいと思います
俺「でも、よく知ってるよね。ブルハのCDは全部持ってるとか?」
そう問うと、女の子は下を向いて「んーん」と首を横に振った。
俺「じゃあ、レンタルしてiPodとかに入れてる?」
茶髪の子「持ってないよ、そんなの」
俺は不思議に思って、首を傾げた。
茶髪の子「これで、聴いてる」
女の子はそう言うと、何やら音楽プレイヤーを取り出した。
俺「MDウォークマン?」
俺がそう呟くと、女の子は恥ずかしそうに頷いた。
MDって! このご時世に、今だに使っている人がいたとは。
どうしてこんなものを使っているんだ。
茶髪の子「やっぱり変でしょ? キモいよね、こんなの」
茶髪の子「今時こんなの誰も使ってないって知ってるし」
茶髪の子「知ってるし……」
先ほどまでカラフルに色づいていた女の子の表情が、
たちまち曇っていくのが分かった。
俺「別に全然キモくないよ」
俺「俺だって昔はよくMD使ってたし、お気に入りのは今でもとってあるしw」
そう言うと、女の子は安心したのか「ほんと?」と顔を上げた。
俺「それにMDって味があって良いと思うよ、俺は」
自分でも苦し紛れな事を言ってるな、と思った。
でも、そうでもしないと。余計なことで落ち込ませたくない。
なんでMDなんか? という疑問は心に残ったが、
俺はそれを一旦忘れることにした。
それに、そのMDウォークマンは妙に使い込まれているようで、
普段これで擦り切れるほど音楽を聴いてるんだろうな、と思うと、
そんな疑問はどうでもいいように思えた。
俺「それにしてもブルーハーツがすごく好きなんだね」
茶髪の子「うん、大好き! 全部弾いてみたいなって思ってる」
俺は笑って「それはすげえな」と言ってしまった。
俺「他には、どんなのを聴くの?」
そう質問すると、女の子は「ほかぁ?」と言ってしばらく考えた。
茶髪の子「ミッシェルとか、ブランキージェットシティーとか?」
俺「うっそマジ! 超いいじゃん!」
いずれも90年台の遠い昔のバンドだが、俺も大好きだったので驚いた。
茶髪の子「え、知ってるの? 分からないかと思った!」
俺「そりゃ、かなり昔のバンドだけどさ。俺も大好きだよ!」
茶髪の子「でもやっぱり、ブルーハーツが断トツで一番好きだけどね」
俺「それも分かるわぁ」
俺とこの女の子、なぜか妙に波長が合った。
俺「でも、なんでそんなに昔の音楽ばっかり聴いてるの?」
中3の女の子の趣味にしては、あまりに違和感があるように思えた。
俺の問いに、女の子は少し苦笑いして答えた。
茶髪の子「家に、そういうMDしかないんだよ」
茶髪の子「だから古い音楽しか聴かないの」
俺「なるほどね、そういうことか」
納得してそう答えると、彼女はすぐに続けた。
茶髪の子「でも、それでも良かったと思ってるよ」
茶髪の子「じゃなきゃ、ブルーハーツにも出会えなかったし」
そう言うと、俺の方を見てにっこりと笑った。
茶髪の子「ブルーハーツの歌を聴いてると、なんか元気が出てこない?」
茶髪の子「こんな自分でも頑張ろうって、なんかそんな感じにさ」
女の子の言葉に、俺は大きく頷いた。
俺「うん、分かる。かっこ悪くてもいいよ! ダメでもいいんだよ! みたいなw」
そう言うと、女の子は「そうそうw」と嬉しそうに何度も頷いた。
そんな風にブルーハーツ談義に花を咲かせていたが、
腕時計に目をやると、相当な時間が経っていたことに気づいた。
俺「まずい、さすがにもう行かないとな」
茶髪の子「そっか、勉強に来たんだもんね」
女の子は、寂しそうに呟いた。
茶髪の子「ねえ、勉強って楽しい?」
そう聞かれて、俺は返事に困った。
そりゃあ、決して楽しいものではないけど……
俺が答えられずにいると、女の子は「ごめん、急いでるのに」と言った。
茶髪の子「そういえば、名前聞いてなかった。聞いてもい?」
俺「ああ、そうだね! 俺は1だよ。そっちは?」
そう問いかけると、女の子は仄かに笑みを浮かべて、
「ヒロコ」でいいよ、と言った。(もちろんブルハの甲本ヒロトから)
ヒロコ「いつまでここにいるの?」
俺「一週間だから、来週の土曜日には帰るよ」
そう答えると、ヒロコは「そっかぁ」とだけ返事をした。
俺が「じゃあね!」と言ってその場から去ろうとすると、ヒロコが「待って」と呼び止めた。
ヒロコ「あたし、大体いつもここにいるから」
ヒロコ「明日も、明後日も、雨さえ降ってなければいつも」
俺はそれに、「うん、わかったよ」と答え、小走りで境内を出て行った。
多分あれは、「また来てね」という事なんだろうか。
そう考えると、ちょっと嬉しくなった。
こんな見知らぬ田舎の山奥で、気心の知れた友達ができたように思えた。
鬱蒼とした階段を降りて古ぼけた鳥居を抜けると、来た時よりも若干日が傾いていた。
神社の境内は木陰で風も通っていたので涼しかったが、
自転車で走り始めると、やっぱり焦れったい西日が身体に纏わりついて、死ぬほど暑い。
それでも見上げれば、頭上には青々とした空がどこまでも広がっていた。
「ブラウン管の向こう側~♪」
俺は思わずブルーハーツの「青空」を口ずさんでしまった。
ヒロコも、「青空」は好きだろうか?
あ~ブルーハーツの青空は良い曲だよな
俺もよく口ずさんじまう
おっさんだからかもしれんがw
その後、大急ぎで宿に戻った俺だったが、
担任には怒られ、ジュースを忘れたことで女子からもブーイングを受け、散々だったw
でも、俺の心にはヒロコのことが焼き付いていた。
他人を寄せ付けないような明るい茶髪、煙草、最初は明らかにやばいと思ったが、
話してみればなんと気の合う子だったことか。
一体あの子は何なんだろう?
そんな気持ちが俺の心を占めつつあった。
夕食の時間、食堂で隣に座った武智に話しかけられた。
武智「なあ1、お前買い出し行った時何してたんだよ?」
俺「何って? 別に何も」
とぼけようとしたが、武智には効果がなかった。
武智「馬鹿言うなよ。お前随分戻って来なかったじゃねえか」
言うべきかどうか悩んだが、隠すのもおかしいかと思い、言うことにした。
俺「それが近くの神社でさ、地元の女子中学生と知り合って……」
武智「え、お前! ナンパ?ナンパしてたのか?!w」
俺「お前、やめろ! うるせえよ!」
武智の声が配慮の無い声量で、俺は思わず武智の頭をはたいた。
俺「それがさ、その子何か変なんだよな」
首を傾げてそう言うと、武智に「何が?」と聞かれた。
俺「いや、明るい茶髪でさ、そんで煙草吸ってたんだよ」
武智「うわ、ごっついヤンキーじゃねえか」
俺「うん、そうなんだよ。俺もそう思ったんだけど」
武智「何かあったのかよ」
俺「まあねぇ」
俺「俺って、ブルーハーツ好きだろ?」
唐突な質問に武智は戸惑ったようだけど、
「まあカラオケでもしょっちゅう歌うもんな」と答えてくれた。
俺はそんな武智に、あの神社で起きたヒロコとの一部始終を伝えた。
武智は疑いの視線で、「ええーそれマジかよww」と笑っていた。
俺「まあいいよ、信じてくれなくても」
なんだか馬鹿にされた気がして、俺はちょっと嫌な気分になった。
武智「ごめんごめん、まあそう怒んなよw」
武智「それにしても、その子は一人でそこにいたんだろ?」
俺「うん、そうだよ」
武智「なんで神社なんかに一人でいるんだろうな?」
言われてみれば確かにそうだけど……
そんなこと、分かるわけがなかった。
俺「とにかく、この話は誰にも言わないでくれよ」
俺「変に噂にされんのも、嫌だからさ」
武智「おう、分かった」
武智はお調子者だったが、約束した事は守ってくれる。
だから俺も信頼して話をしたのだった。
夕食後、そのまま部屋で休憩時間となった。
一日で、一番羽を伸ばせる時間である。
武智「お前! やめろ! ホームランバットは卑怯だろwww」
元気「アイテムを使いこなしてこそ真の強者だからwww」
武智「殺されるぅぅwww」
武智と元気が、大騒ぎしながらスマブラで遊んでいた。
吉谷はその様子を笑いながら、部屋の片隅でベースを弾いていた。
俺「何弾いてんだ」
吉谷「お? ミッシェルだけど」
吉谷はイヤホンを外しながら答えた。
「そっか」と答えて、しばらく吉谷の奏でるベースの音に耳を傾けていた。
そもそも俺がブルーハーツを好きなのも、
ミッシェルやブランキーといった往年のバンドが好きなのも、
全てはこの吉谷の影響だった。
吉谷は軽音部で、好んでそういうミュージシャンの曲を演奏していたのだ。
吉谷の演奏が一息ついたところで、俺は切り出した。
俺「なあ、『終わらない歌』弾いてくれてない?」
吉谷「いいけど、急にどうしたw」
俺「別に、なんとなく聴きたくなっただけ」
そう言うと吉谷は頷いて、「OK」と言って俺にイヤホンの片方を差し出した。
そして曲をかけると、吉谷は無造作にベースを奏で始めた。
吉谷のベースは安定していて、俺の耳にしっかりと届いてくる。
俺はそれを聴きながら、ヒロコの弾いていたギターを思い出した。
演奏が終わって、「うんうん、これだ」と言うと、
吉谷は笑って「何がだよw」と腑に落ちない様子だった。
俺「いや、なんでもない。ちょっと聴いてみたくなったんだよな」
そう言うと吉谷は所在なげに、「ま、いい曲だよな」とだけ言った。
俺は頭の中で何度も「終わらない歌」のメロディーをリピートさせていた。
妙に心に残って、離れなくなっていた。
しばらくするとまた夜の勉強時間となり、粛々と合宿の1日目は終わった。
翌日の2日目、再び勉強の一日が始まったが、
外は見事に晴れていて、気持ちいいほどの夏模様だった。
午後の休憩時間、俺は武智や吉谷、数人の女子とバドミントンをして遊んでいた。
元気のやつは、てこでも外に出ようとはしなかった。
遊びながら、俺はやっぱり昨日の事がどうしても忘れられずにいた。
だらだら考えるのも嫌で、俺は決心してみんなに告げた。
俺「ちょっとジュース買いに行ってくるわ」
吉谷は「おお、気をつけろよー」と至って普通な返事だったが、
武智は妙にニヤついていた。
見てくれている人ありがとう
また明日の夜書きに来るのでよろしくお願いします
また明日楽しみに待ってるよ~
面白かったよー
懐かしいなぁ…
また明日ね
遅くなってごめんない…
続きを書いていこうと思います。
俺はそんなことにも構わず、自転車に乗ってあの神社を目指した。
正直、自分がどんな感情で動いているのかも分からなかった。
ただ行って、もう一度ヒロコと話してみたい気がした。
真っ白な光が降り注ぐ田舎道を飛ばして、あの鳥居へ向かう。
階段を登ると、小学生たちがサッカーをしていた。
「今日はサッカーかよ」
なんてぼんやりと考えながら、一直線にあの境内へと進んだ。
しかし、そこにはヒロコの姿はなかった。
「いないのか」と肩を落とし、境内の周辺を見回すがやはり人影はなかった。
昨日よりも少し早い時間帯だからだろうか、それとも今日は来ないんだろうか?
拝殿の脇にあった缶からには無数の吸い殻があったが、それでは判別がつかない。
何にせよ目的を失った俺は、そのまま宿に引き返すことにした。
勉強小屋に戻ると、早速武智に話しかけられた。
武智「え、なんか早くない?」
俺「いなかったわ」
武智「そっか、そりゃ残念だな。さすがに、この暑いのに毎日は来ないんだろ」
そう言われたものの、やっぱり何か腑に落ちなかった。
昨日は、明日も明後日もいるって、自信満々に言ってたのになぁ。
武智「そんなことより、朗報だぜ」
俺「なにが?」