道の左側は山の斜面で、右側は林になっており、その先には川があった。
俺たちが自転車を落としてしまったり、遊び場にしている川だが、
夜になるとやっぱり雰囲気が変わり、薄気味悪い。
後続の方から、女子の「きゃー!!」という悲鳴が聞こえてくる。
武智「やってるやってるww」
武智はとても楽しそうに、ニヤつきながら進んでいった。
街灯の灯りはほぼなく、各々持たされた小さな懐中電灯だけが頼りだった。
灯りが少ないというのも、恐怖心を煽る原因だった。
委員長「ちょっと、速いよ……もうちょっとゆっくり行こ」
俺と武智の後ろを歩く委員長が、恐怖に顔を歪め、話してきた。
武智「なんだ委員長怖いのかww」
委員長「そりゃ怖いよ。なんか武智信用できないし」
それを聞いて俺は吹き出してしまった。
武智「なに言ってんだw 何か出たら俺がタックルして吹っ飛ばすよw」
委員長「タックルが通用する相手ならいいけど」
武智「幽霊か! そんなもんいねえよww」
委員長「え? さっきから武智の後ろにずっとなんかいるよ?」
武智「えええ! マジ!?」
この二人、面白すぎる。
二人のやり取りを聞いていると、恐怖心も和らいできたw
委員長「ちょっと、1だけが頼りなんだからね」
それでも委員長は怖いのか、俺の後ろを恐る恐る歩いていた。
武智「そんなにこええならさ、歌でも歌おうぜ」
委員長「やめようよ、変なの寄ってきちゃうよ」
武智「そんなわけあるかwww」
そして、武智は委員長の制止を振り切って思い切り歌い始めた。
武智「夢で逢えたらいいな~! 君の笑顔にときめいて~!」
俺「なんで銀杏ボーイズなんだよwwww」
武智の思わぬ選曲に俺と委員長は大笑いしてしまった。
結局やけにハイになってしまって、嫌がっていた委員長もろとも、
三人で銀杏BOYZの「夢で逢えたら」を熱唱しながら進んだw
肝試しのテンションは、本当に恐ろしい。
しばらく進んでいると、ミッションを終えてUターンしてくる班ともすれ違い、
目的地である廃商店が見えてきた。
ハイになっていた俺は「アイテム取ってくるぜ!」と言って、
一人で駆け出してその廃屋の近くに寄っていった。
建物の表側にそれらしきものが見当たらなかったので、
裏へ回ってみると思いもよらぬものが目に入った。
お前はくりぃむしちゅーのオールナイトでも聞いてんのかw
懐中電灯の微かな灯りの先に、吉谷と渚が抱き合ってキスをしていた。
俺「あ……」
俺は、思わず声を出してしまった。
すぐ引き返せばいいものを、固まってしまって動けない。
吉谷「1? 1か?」
吉谷に気づかれて、俺は一目散にその場から離れた。
表側で武智と委員長が、「ここにあったよ~」と、
アクセサリーらしきものを手に取っていた。
俺「早く帰るぞ」
ぶしつけにそう言って、引き返そうとする。
武智「何かあったか?」
俺「いいから、早く来るんだよ!」
珍しく俺が声を荒げたので、武智も委員長も素直についてきた。
吉谷は隠してたのか?
帰り道で、俺はがっくりうなだれていた。
うそだろ? そうだったのか? そんなアホな。
そんな考えがとりとめもなくグルグルと頭を回っていた。
武智「おい、お前変だぞ。何かあっただろ?」
委員長「そうだよ、1何かあったの?」
武智にだけ聞こえるように、「吉谷と渚が……」と話した。
武智「えー!? うっそだろマジで!?」
武智は驚きを隠しきれないようだった。
揺るがない現実を突きつけられた俺は、
情けないことにポロポロと泣き出す始末だった。
委員長「泣くほど怖かったの?」
武智「馬鹿言えw」
委員長「じゃあ、どうしたの? 普通に心配なんだけど……」
そう言われて、武智が俺の顔を見た。
武智「別に、委員長なら大丈夫だろ。言わないのも逆に悪いし」
俺はそれに、黙って頷いた。
武智「吉谷と渚が、あの商店の裏でキスしてたらしいんだ」
委員長「あ、そうなんだ」
その反応は意外なものだった。
武智「あれ、驚かないね」
委員長「まあ、だって私は渚と吉谷君が付き合ってるの知ってたし」
委員長「むしろ、それで1が落ち込むのがびっくりなんだけど……」
武智は、また黙って俺の方を見た。
俺「俺、渚のこと好きだったからね。それでだよ……」
委員長「うっそー! そうなんだ知らなかった」
委員長「ってか二人とも吉谷君と渚が付き合ってること知らなかったの?」
そう質問されて、俺も武智も「知らなかったけど」と答えた。
委員長「えー! じゃあ吉谷君は1にも武智にも付き合ってること言ってなかったの?」
武智「聞いた覚えはねえよな?」
そう振られて、俺も大きく頷いた。
武智「少なくとも、男子で知ってる奴はいないんじゃねえの」
委員長「うわー、そうなんだ……」
暗がりで委員長の表情はよく見えなかったが、声色が呆れていることは分かった。
委員長「吉谷君は、1が渚のこと好きだってことは……」
俺「知ってるね。前に話したことあったし」
武智「そうだよな、前に言ってたもんな」
それを聞いて委員長は「やばいことになったねぇ」と苦笑いしていた。
武智「いやー別に付き合うのはしょうがないかもしれないけどさ」
武智「隠してたってのが、やっぱりショックだよな~」
本当にそうだった。
俺は渚の気持ちだって最初から知っていたし、
ハッキリ言ってくれれば諦めだってついたのに。
今まで吉谷と仲良くしていた時間、あの全てが偽りだったように思えた。
アイツは、俺や武智や元気と遊んでいる時、笑っている時、
一体何を思っていたんだろうか?
吉谷は、俺の渚への想いを知っていた上で、秘密にしていたのか?
武智「まあでも、アイツにも何か事情があったかもしれんし」
委員長「うん、吉谷君もきっと悪気はないと思う……」
それはそうだけど。そんな事言っても、気持ちに整理はつけられなかった。
なぜ隠していた。なぜ黙っていた。
そんな想いが黒く燃え上がって、俺の心が荒んでいくのが分かった。
肝試しが終わり、へとへとになって部屋に戻って、
元気や武智たちと何を話すでもなくゲームをして遊んでいた。
すると、そこに吉谷が何も言わずに帰ってきた。
俺たちには話しかけず、布団を敷いて先に寝るようだ。
もしかしたら俺は、吉谷を睨んでしまっていたかもしれない。
武智「なあ、吉谷」
武智が声をかけると、横になった吉谷はだるそうに、「なに」と答えた。
また明日書きに来ますね、ではでは!
何にせよ続きが気になる
また明日な!
修羅場突入かね?
あと武智と委員長のかけ合いめっちゃ好きw
続き気になるー
続きを書いていこうと思いますー
まったりでいいから続きよろしく
武智「お前、渚と付き合ってたのか」
吉谷「なんだ、もう武智にまでまわったのか」
吉谷は、こちらを向くこともなく、淡々と話した。
武智「俺たちに隠してたのかよ」
吉谷「別に隠してはいねえよ。元気には言ってあったしな」
元気は状況を飲み込めていないようで、「何かあった?」と混乱している。
武智「何も。ただ、吉谷が付き合ってるのが分かったんだよ」
武智「んで、俺と1には秘密にしてたのか?」
武智がグイグイと突っ込んでいくので、俺は心配になった。
俺「おい武智、もういいって……」
吉谷「ああ、隠してたさ。だって、何て言えばいいんだよ?」
吉谷「1、お前の気持ちだって俺は知ってんのに」
武智「そんなもん! 素直に言えばそれで済んだことだろ!」
吉谷「できるか!!」
吉谷が、大声をあげた。
あと一歩で、担任が部屋に来そうなくらい、大きな声だった。
吉谷「そんな簡単に、できるか!」
吉谷「俺だってどれだけ悩んだと思ってる」
吉谷がそう言い切って、部屋の中はしんとした。
俺も武智も元気も、誰も何も言えずにいた。
吉谷「隠してたつもりはない。いつかは言おうと思ってた」
吉谷「そこは……悪かったって思ってる」
それだけ言うと、吉谷は布団に潜り込んでしまった。
それはそうだ。
吉谷だって悪気があったわけじゃないだろうし、悩んだはずだ。
でも、俺だってそんな簡単には割り切れなかった。
次の日、4日目は何もかも手がつかなかった。
まったくと言っていいほど、集中できない。
何をする気も起きなかった。
武智も、元気も、吉谷も、みんな様子がおかしい。
仲の良かった俺たち4人の関係が、壊れかけていた。
いがみ合ったり、言い合ったりはしないが、
今までのような自然さや、気軽さがない。
それに、吉谷は目に見えて俺たちを避けているようだった。
しかも、俺は失恋をした。
元々諦めかけていた渚への想いだが、
それが完全に打ち砕かれた。
渚という俺の好きな人は、目の前から消えた。
むしろ、これで良かったのかもしれないが、
どうしようもない虚しさと、やりきれない悲しさだけが心に残った。
そんな、様々なしこりを残したまま、4日目は終わった。
翌日の5日目、この日はとても暑く朝からみんなへばっていた。
俺たちを灼き殺しそうなほどの太陽が、カンカンに照っていた。
例のごとく、午後の休憩時間に担任が「お菓子の買い出し頼む~!」と呼びかけた。
武智もその場にいなかったので、俺は一人で名乗り出て、買い出しに行くことにした。
正直、もうあの神社に向かうつもりもなかったのだが、
俺は気づけばふらっとあの神社に立ち寄っていた。
階段を登るのは大変なのに、俺はまたあの鳥居の前に自転車を止めて、
神社へと向かっていった。
白い日光が広場を一杯にして、その中で小学生が駆け回っていた。
その様子に少しだけ嬉しくなって、俺は境内を目指した。
拝殿には、やっぱりヒロコが座っていて、ギターを弾いていた。
あ、いるじゃないか。
それは安心なのか、ときめきなのか、自分でも分からなかった。
ヒロコ「あ、1だ! 来てくれたんだね」
俺「うん、なんか久しぶりだね」
ヒロコ「昨日も一昨日も来なかったから、もう来ないかと思ってた」
そう言うと、ヒロコは「ひひ」と笑った。
その表情は汗ばんでいて、少しだけ火照っていた。
俺「ごめんね。ちょっと大変だったんだ」
ヒロコ「もう、明後日には帰っちゃうんでしょ?」
俺「そうだね……」
そう呟くと、ツクツクボウシの声がどこからともなく聴こえた。
俺「またブルーハーツ弾いているの?」
そう聞くとヒロコはニコッと笑った。
ヒロコ「うん、終わらない歌。この前弾いた時、すごく楽しくて」
ヒロコ「だから、完璧にしたいなって」
この前弾いた時。あの時は、楽しかったな。
そんなことを思ってしまった。
俺「こんな日は、『青空』なんかもいいよね」
ヒロコ「いいね! でも、青空はまだ練習中だから~」
俺「そっかw」
ヒロコと話していると、自然と笑顔になっている自分がいることに気づいた。
どうしてだろうか?
ふと、ギターを弾くヒロコの二の腕あたりに、あざがあるのを見つけた。
俺「ちょっと……そのあざは何?」
しばらくヒロコは黙っていた。
俺「何かあったの?」
ヒロコ「ちょっと、殴られた。この前のあいつらに」
俺「え? マジで?」
ヒロコは黙って頷いた。