昨日の夜中ランニングしてたら急に腹痛くなって公衆便所入ったんだよ
俺クソするときはいつも「ん~っ!」って声がでるんだ。それでその時もご多分にもれず
ん~っ!って唸ってた。
固め太めのクソで中々出ないから声もドンドンデカくなったんだわ。
そしたら俺のうんこちゃんがようやく頭をチラ見せしたあたりで隣の個室から声がかけられた。
「すみません、紙をください」
ふいに声をかけられて俺のうんこちゃんは頭の中だけちぎれて便器に落ちてまた引きこもってしまったんだわ。
おいおいマジかよ、なんて思ったけど真夜中の公衆便所で隣でクソしてるやつがいるって親近感から、紙をくれてやろうと思ったわけさ。
そんでペーパーを確認したら、ほんと残りわずか。
一拭き、頑張って2拭きぐらいかな?
俺だってうんこが、少しでてるし、あげるのはしんどいなと思ってこう返したんだ。
「すみません、こっちほんの少ししかなくて。そっちは0なんですか?」
「0ですっ!」
ブボボッと音がなりながら隣の個室から声が返ってくる。
話しかける時ぐらいクソやめろや、って俺は思う。
隣のおっさんの声はすげー必死で、うんこの先しか出てない俺はなんだか哀れに思えてきたんだ。
で、俺のケツはあんま汚れてないから最悪女子便所に貰いに行きゃいいと思って隣の個室に残りのペーパーを投げたんだ。
俺はこの時の俺の思慮の足りなさをのちに後悔することとなる。
それで最後だということを言い忘れていた。
俺は急いで口にだす。
「それでさいg「すみません、足りないです」」
俺の声におっさんの声が重なる。
よく考えれば当然だった。
おっさんは下痢なのだ。1.2回の拭き取りで吹き切れるはずもない。
「それで最後なんです」
俺がそう言うと、おっさんの部屋からふぅ、というため息が聞こえてきた。
俺は殺してやろうかと思った。
「女子トイレからとってきますよ」
このままケツにうんこが付いたままでいても仕方ないので、俺はズボンをできるだけ下げて履き、男子トイレをでる。
「よろしくお願い申し上げます。」
おっさんはそう言うとまたブボボッとクソだか屁を出した。
併設されている女子トイレに俺はいそいそと足を踏み入れる。
誰もいないのはわかっているのだが、すいませーん、ペーパーもらいますと言いながら。
全くもって俺はアホである。
女子トイレには紙があるはず、なんてのはあくまで憶測だ。
男子トイレでキレている紙が女子トイレにはキチンとある?
あるわけが無かった。
俺は全ての個室を開け、紙がないことを確かめると、後でこの便所の管理機関にクレームを入れることを決めた。
男子トイレに戻りおっさんに告げる。
「紙、なかったです。」
「そうですか…、なんかすみません。」
おっさんは諦める。
「俺は近くのコンビニで拭いて帰りますよ、あなたもそうしたらどうですか?」
可哀想になったので提案する。
「本当に申し訳ないのですが紙を買ってきてくれませんか?」
おっさんは拭くのを諦めきれぬとばかりに言い出す。
さすがに俺はそれはお断りだった。
見ず知らずの親父のためになぜそんな事をせにゃならんのだ。
図々しいにもほどがあるぞ。おっさんよ。
ケツにうんこついてんだぞ
味噌ラーメン食ってる時にうんこの話すんなよ
汗で貼りついたシャツが気持ち悪いので俺はもう早く帰りたかった。
俺はまだ何も言っていなかったが、俺の面倒がる雰囲気を感じ取ったのだろう。
おっさんは語りだす。自分がこれから久しぶりに実家に帰る事を。年の離れた妹に4年ぶりに会う事を。クソで汚れたズボンで帰りたくのはないのだ、と。
同情を誘うつもりだったのだろう。
現に俺は誘われた。
「仕方ないですね。でもいま俺はお金持ってないですよ」
「当然お渡しします。」
財布を開けたおっさんがしばし沈黙。
そして独り言のように呟く。
「万札しかねぇ…」
「あー、やっぱ大丈夫な感じですか?」
見ず知らずの人間に1万は預けられないだろうな、と俺は思う。
少しの間の後におっさんは答える。
「いえ、あなたはわざわざ女子トイレまで見てきてくれました。
信用しますよ」
個室の下の隙間から1万がでてきた。
俺はなぜだか感動してしまった。
人に信頼されるというのがこんなに嬉しいなんて。
「必ずすぐ戻ります!」
そう言って俺はコンビニへ走った。
おっさん、俺はあんたの信用は裏切らないからな!
おっさん、妹と仲良くしろよ!
走りながらそんな事を考えていた。
コンビニに入り、トイレで自分のケツを拭くとすぐにティッシュ(水に流せるやつ)を買って公衆便所へ戻った。
「戻ってたぜ」
俺は言う。
「信じてたよ」
壁越しにおっさんが微笑んでいるのがわかった。
俺がティッシュを渡すと、おっさんはすぐにでてきた。
30半ばぐらいのシュッとしたかっこいい男だった。
こんなかっこいい人がケツ丸出しで困ってたんだな、なんて思って俺は少し笑った。
おっさんはその俺の笑いを自分に笑いかけたんだと勘違いしたようだ。
俺に向かって微笑む。そして手を前に出す。
握手だ。
俺たちは固く握手をした。
そしてすぐ気付いた。
手洗ってねー。
「それじゃ妹さんによろしくな」
年の差こそあれ、戦友である。
気づけば俺はタメ口を使っていた。
「おう、いろいろとありがとな」
おっさんも旧知の仲に話しかけるように言った。
それじゃあ、と俺たちは別れをつげた。
おっさんとは逆方向に俺は走って帰った。
冬の風は冷たくて嫌いなんだがこの時はとても爽やかに感じられた。
100mぐらい走ったところで俺は気付いた。
お釣り渡してねーじゃん。
急いで引き返すとおっさんはすぐに見つかった。
俺はお釣りを右手にかかげて叫ぶ。
「おっさーん、待ってくれー!釣りだー!これ!釣りだー!」
おしまい