今日の朝、このスレにて出発を宣言してから病院へ向かった。
なにか見舞いの品でも持っていった方がいいのかな、
と歩いているときに思いついたんだ。
花でも買っていこう、と思ったんだが結局やめた。
エリの好きな花というのがわからなかったから。
ずっと一緒にいたのに俺はそんなことも知らなかった。
これなら振られて当然だよな。
と、くらい気持ちに入りかけたので買うのはやめにした。
で、見舞いも持たずに病院へ。
失礼な奴だ、と追い返されるかななんて思ったりもしたがそんなことはなかった。
病院の中は割と閑散としていて人が疎らだった。
見ると、色々な人がいたけど不謹慎なのでやめておこう。
一つ思ったのはここにエリがいるんだなってことだけだ。
で、さすがにアポイントなしで突貫するのは如何がなものだろうと思い、
とりあえず受付に見舞いの旨を伝える。
すると、受付の人が「ご関係は?」と聞いてきた。
なんて答えればいいのかわからなくて口ごもってしまう。
友達? 幼馴染? 元彼?
何となく、どの言葉もいやだった。
かといって他に何も浮かばない。
悩んだ末に、
「元、彼です……」
なんとなく口が酸っぱくなった。
445: :2009/06/09 (火) 17:24:06.46 ID:RdeCeYG+P
俺の言葉を聞いた受付人は、アラそう、見たいな態度。続けて、
「ご家族や本人の同意は?」
みたいなことを聞いてきた。
すっかりそんなことを忘れていた俺は、ありません、と答えるしかなかった。
せめてエリの家に電話だけでもしておけば良かったなあ、と意味のない後悔をした。
受付嬢は不審者を見る目付きで俺を人睨みし、
「ちょっと待っててくださいね」
というとどっかへと電話をかけた。
電話が終わる。
「あちらでしばらく待っていてください」
ロビーを指差してそう言った。
ねーちゃん態度悪いなw
まぁ、仕方ないんだろうけど
447: 2009/06/09 (火) 17:28:57.90 ID:RdeCeYG+P
で、しばらくポツーンと待つ俺。
平日の朝っぱからなにしてるの、アノ人。ヒソヒソヒソ。
そんな声が被害妄想で聞こえた。
で、俺はくじけないためにもエリのことを考えていた。
カバンのなかを覗く。
入っていたのは一通の便箋だ。
受験の時、携帯を奪われた俺が彼女と取った連絡手段。それの名残。
エリからもらった万年筆で書いたそれは、もし、エリに会えなかったら渡してもらうつもりだった。
中に書いてあるのは、謝罪の言葉。そして、俺の今の気持ち。エリのことが、好きだという。
これの出番は来ないといいなあ、などと考えていると俺の名前が呼ばれた。
「ヤスさーん。こちらへ来てください」
受付の方へ近寄ると、見たことのある人がいた。
なんでこの人がここに? という疑問。
いや、病院自体にはいてもおかしくない。
だけどどうして俺の前にいるのだろう。
「久しぶり、ね」
「は、はあ……」
突然現れたエリの母親に、俺は戸惑いを隠しきれなかった。呆然としたまま返事をする。
「どれくらいぶりかしら?」
たぶん、最後にあったのは俺とエリの受験が終わり、合格祝いに彼女の家に行ったときだった。
「え、っと……。たぶん四年とちょっとくらいかと」
「そう。ちょっと早いけど、お昼食べる?」
「は、はあ」
俺たちは受付から食堂へと移動した。
正直、彼女の登場は予想外だった。
何を話していいのかもわからないし、そもそもあまり話したことがない。
昔は、「娘をよろしくね」「いえいえこちらこそ」などと言い合っていたが、
今はそんなことを言えない。少なくとも今は。
「ここの食堂はそれなりに美味しいのよ」
「はぁ」
「なにか頼む?」
「え、あ、じゃあアイスコーヒーで」
緊張で喉が乾いていた。
お嬢さんを僕にください、とか言うよりも緊張するんじゃなかろうか。
体験したことないが。少なくとも今は、まだ。
「そう、じゃあ私はーーこれで」
メニューを見て指をさす。
そんな、ちょっと子供っぽい仕草がエリに似ているな、と思った。
4年ぶりのお母さん…ドキドキ
ちなみに、ここは食券なのでメニューに指さしたところでは意味はなかった。
「えっと、じゃあ買ってきますよ」
「あらそう、悪いわね」
とにかく俺は気まずかったので席を立つ。
お金をもらうのを忘れていたが、まあ別にいいなと思った。
もともとこっちでもつつもりだったし。
アイスコーヒーと彼女の頼んだフライドポテトを持って席へ戻る。
「どうぞ」
「ん。ありがとうね」
受け取ると、彼女はムシャムシャとポテトを食べはじめた。
それをただ見ている俺。
なんだろう、俺はエリに会いにきたのになんでその母親と対峙して、
挙句目の前でポテトを食われているのだろう。
気がつくとまたエリのことを考えていて。
本当に好きなんだな、会いたくてたまらないんだな、と思うと緊張が和らいだ。
「ねえ」
突然、声をかけられる。
その声は怒っているでもなく、さりとて歓迎しているようでもなかった。
「どうしてここに来たの」
来た、と思った。
「それは、エリ……さんに会いに」
「会って、どうするの」
彼女の声は平坦に響く。力が篭っていなくても感情が篭っていた。
「それは……」
「あなたたちは終わったんでしょう?」
胸が痛みを覚えた。
だけど、事実だ。
「……はい」
「それなのに今更会ってどうするの? 突然、現れて……」
「……俺は……」
迷ってはいけない。というより、迷いはなかった。
「エリさんとヨリを戻したいと思っています」
あああああ
よく言った!!ヤスカッコヨス
言ったぁぁぁああ!!
良く言えたなGJ!
465: 2009/06/09 (火) 18:03:58.15 ID:RdeCeYG+P
声はどもることもなく落ち着いて出た。
「エリが今どういう状況だか知っているの?」
「いえ……あまり詳しくは」
「エリが、あなたと別れた後、どうしていたか知っているの?」
「……いえ」
少しずつ。
「それは、そうでしょうね。あなたはエリを遠ざけたんですもの」
少しずつ、彼女の感情が発露していく。
ポテトを食べる手は止まっていて、視線が俺を射抜いていた。
「なら、私が教えてあげる。エリがあなたと別れた後、どうしていたか」
母親がラスボスに見えてきた………
でもここを越えないと何もはじまらないんだろ?
がんばれヤス!
やはり最期の敵は同じ人間か…
それから、彼女はエリのことを語った。
その中には俺の知っていたことや、
さっき書いたエリの現状についてもあった。
だけど、当然俺の知らないことがほとんどだった。
「いろんな人と付き合っていたわ。だいたい一ヶ月くらいで全部終わっていたけどね。
どれも相手の人にフラれたみたい。重い、って言われたらしいわ。
あなただけね。エリから振ったのは」
言葉の矢が刺さった。
正直に言えば、滅茶苦茶ショックだ。だけど、それを表に出さないように。
「なんでそんなに知っているんですか」
おもに俺が振られたこととか。
「当然よ、母親だもの」
理屈ではなかった。
いいお母さんだ
母親ってすげえなあ・・・
「まあ、ざっとこんなものかしら」
「……ありがとうございます」
それから三十分くらい、話を聞かされた。
その中でチクチクと入る棘に俺は割とダメージを受けた。
「どう、あなたが知らないことばかりでしょう?」
「ええ、まあ」
気のせいか、言葉の棘が増している気がした。
「でも、どれもこれも、あなたが知ることのできたものばかり。あなたがエリの傍にいれば、ね」
うん。気のせいではなかった。
それどころかこれは完全に責められていた。
「あなたがエリと連絡を絶たなかったら、エリがここにいることにすぐ気付けた、でしょう?」
「……はい」
その通りだ。
俺が、逃げたりしなければ。エリの以上に気づくことはできた。いや、そもそも。
「もしかしたら、あなたがいなくなったから、エリは誰かにいてほしかったんじゃないかしら」
「ーーッ」
やっぱり。そうなんだろうか。
「まあ、想像だけどね」
それは嘘だった。目が、確信していた。
俺のせいだと。
俺は、責められていた。非難されていた。
「それで?」
相変わらず目に力を込めて、声音だけは平坦に。
「あなたはまだヨリを戻したい?」
娘を傷つけておいて。
それでも、まだ戯言を吐けるのか。
そういう問いだと思った。
辛い。
ある程度想像していたとは言え、面と向かって、
それも親の口から言われると予想以上に堪える。
コーヒーはなくなっていた。
喉が乾く。
俺には資格がないのかもしれない。
エリから逃げた俺には。
彼女の隣にいる資格は。
「…………おれ、は」
思い浮かぶのは、これまでやってきたゲームの主人公。
彼らは迷って、逃げて、けれども諦めることはなかった。
幸せを。好きな人と歩む幸せを手に入れるために。
俺は、彼らになりたかった。
身勝手と罵られても構わない。
資格がないと言われても知ったこっちゃない。
エリとの日々が浮かぶ。
ただ俺は。なによりも。
「それでも、俺はエリともう一度一緒にいたいです」
エリが好きだった。
よく言ったぞヤス!!
「あなたと一緒にいて、またエリが不幸になるかもしれないのに?」
「させません」
「あなたのことを、もう嫌いになっているわよ、きっと」
「それでも、今度は友人として、彼女のそばにいます」
「本当にずっと一緒にいられるの」
「います。そのために、家でできる仕事を選びました」
物書きの仕事は、そのために選んだ。
好きな人と一緒にいられるように。
「……そう」
俺の言葉を聞いた彼女は、フーと長く息を吐いた。
誰も悪くない
だから哀しい
帰ってきたばっかなのに泣きそうなんだが
「まあ、そこまで言えるのなら私の言うことはないわね」
急に、それまでの剣呑さが消え失せる。
先ほどのため息と一緒に吐き出したように。
「後は当人同士の問題ね」
「えっと、いいんですか……」
「まあ、ね」
彼女は俺から視線を外してどこか遠くを見る。
何を、見ているのだろうか。
「エリがああなったのは私にも責任があるしね……」
そういえば、と思い出す。
エリの両親は共働きで、たまにしか家にいなかったことを。
小学校の授業参観も、彼女の祖母が来ていたことも。
「だから、本当はあんまり口出しできないんだけど」
「娘を泣かした男に一言、言ってやりたかったんだよ」
言った彼女は困ったように笑った。
母さんの気持ちも分かるが、清々しい母ちゃんだな。
結婚したら、良いお付き合いできそうだな。
やっぱ母親は偉大だな!
あれだな
やっぱりウダウダ考えててもしょうがないってことだよ
後悔するかしないかは全て自分次第だ
これが、母親なんだと思った。
無条件で味方してくれて、自分の全てを背負ってくれる存在。
母親の顔が浮かび、少し涙が出そうになった。
「ほら、なんて顔してるの。これから会いにいくんでしょ?」
「えっ、あ……いいん、ですか」
「うむ。許可しよう」
大仰に頷く。
「先に私が行くから呼んだら入ってきてね。後は二人きりで話なよ」
「は、はい」
ようやく。
四年ぶりに。
エリと、会える。
「ああ、一つ教えてあげる」
「はい?」
会計を済ましたところで声をかけられる。
「エリはね、付き合っていた人と別れた夜は決まって泣いてたよ。誰かさんの名前を言いながらね」
「……え、え?」
何だそれ? どういうことだ?
理解が追いつく前にサッサと行ってしまった。
もしかして、という希望が生まれた。
エリのことを抱きしめてあげられるかも、と。
こ、これは・・・
エリちゃん一途過ぎだろ
涙が止まらない
そういやヤスこと>>1はエリたんの入院先の病院をどうやって特定したの?
話聞く限りでは友人も噂だけで入院先の病院までは知らないっぽいし
エリたんの両親とは病院で4年ぶりに会ったんだし…?
>>531
近くの精神科、もしくは精神病院に片っ端から聞いた。
というよりも入院も出来るような病院は限られていたので割と楽だった。
今思えばその時に面会できるかどうか聞けばいきなり突撃にはならなかったのでは……。
532: :2009/06/09 (火) 19:22:09.04 ID:RdeCeYG+P
病室の前に立つ。
この中にエリがいると思うと緊張してしまう。
「じゃ、ちょっと行ってくるから」
エリの母親が行ってしまう。
チラリと部屋の様子が見えたが、相部屋だったのでエリを見つけられずに扉は閉じた。
ただ呆然と立ってるのも馬鹿らしいので、携帯でこのスレの確認でもしようと思った。
が、病院内は携帯禁止だということを思い出してすぐさま電源を切った。
仕方ないのでただ待つ。
本日二回目の待ちだ。
今度はさほど待たずに、彼女の母親が出てきた。
ん? でてきた。
「あの……」
「あー、悪いけど。ちょっとこっち来て」
何が起こった?
呼ばれるままにホイホイついて行く。
なぜか、病室は遠ざかってしまった。
「あ、あの……」
「黙ってついてくる!」
「は、はい」
そして出たのは中庭、みたいなところだった。
公園程度の敷地にベンチが二つ程度。
芝生の緑が目についた。
屋外なので、空調はなく昼特有の蒸す感じがする。
「ここで待ってて」
「はあ」
置いて行かれてしまった。
本日、三度目の待ち。
立っているのもアレなのでベンチに座った。
これが最後ならいいなあ、などと思って時を過ごす。
そして、十分が過ぎた。
ちなみに、そこからエリの病室までは歩いて三分もしない。
まさか、追っ払われた……。
いやな予感がしたので、立ち上がろうとすると。
「ん?」
中庭の入り口に、誰かが、いた。
ま、まさか・・・・・・
マジで・・・
小柄なその影は、こちらの様子を伺っているようで。
やたら、おどおどしていた。
こちらの視線に気づくと。
ゆっくりと、こちらへ歩いてきた。
涙が、出そうになった。
万感の思いを込めて、彼女の名前を呟いた。
「……エリ」
「……や、やあ」
彼女はバツの悪そうに顔を背けた。
四年ぶり・・・なんだな・・・