91:名も無き被検体774号+:2013/03/27(水) 22:28:06.46 ID:pAAX5QQj0
夕飯を食べた後、
人のいなくなった食堂に向かうと
親父さんはソファに座り、女将さんは厨房で何かしているようだった
俺が来たのを見つけると
親父さんは「やあ」と言って笑って近づいてきた
そうすると女将さんも気づいて
「あらどうもーw」と言ってくれた
96: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/27(水) 23:35:45.53 ID:pAAX5QQj0
親父さんはニコニコして「今日も飲む?w」
とか言いながら新聞を広げて斜め前に座った
カシャカシャと女将さんが洗い物をする音が響いていて
俺はしばらく黙ってテレビを眺めていた
言うか言わまいか、ドキドキしながら悩んだ
口を開くまでにけっこう時間がかかってしまった
104: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 00:21:12.68 ID:W/rZejtD0
俺「あの、玄関のスタッフ募集の紙見たんですけど…」
親父さん「おお、あれか」
俺「あれって今も…?」
俺は恐る恐る尋ねた
親父「パートさんの入れ替え激しいからね、いつもだねw」
俺はそれを聞いて意を決した
107: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 00:25:05.54 ID:W/rZejtD0
俺「ここでしばらく働かせてもらえませんか…?」
勇気を振り絞って言った
すると親父さんの顔から笑みが消え真剣な眼差しになった
親父さん「本気なの?」
俺「本気です」
俺は黙って親父さんの目を見ていた
108:名も無き被検体774号+:2013/03/28(木) 00:29:09.62 ID:PlZtH6gE0
追い付いたわ、これは良スレの予感
109: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 00:31:36.10 ID:W/rZejtD0
俺の言葉を聞いて親父さんは優しく笑った
親父さん「いいよ」
俺「本当ですか?」
正直びっくりした、まさか快諾してくれると思っていなかった
親父さんは「かあさーん」と言って女将さんを呼んだ
「使ってない部屋あったよね?」「ええ」みたいな会話を始めた
親父さん「家、遠かったよね?住み込みで大丈夫?」
と言われたので、俺も「はい、はい!」と勇んで返事をした
111: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 00:38:45.22 ID:W/rZejtD0
嘘のように軽やかに、話がどんどん進んでいく
「○○君、パソコンには強い?」「ちょうどWEBサイトを作りたかったんだ」
「洗濯の仕方分かるかい?」「子どものゲームの相手はできるかい?」
親父さんと女将さんがにこにこしながら話しかけてくる
「若い人が来てくれると活気がついていいねえ」
親父さんは笑顔で俺に言ってくれる
こんな、クズニートの俺にも生きる場所があった
ガキ臭いが俺はそんな風に思って
凄く凄く嬉しかったよ
113: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 00:46:39.78 ID:W/rZejtD0
俺はその日を境に、今までの俺から変わった気がした
なんでもやってやる、やりたい、と思えるようになった
親父さんに言われて次の日、さっそく実家に戻って荷物を持ってくることにした
親に民宿のパンフレットと名刺を見せて
「ここで働く事にした。住み込みだから、しばらく家を出る」
と伝えた
今までニートで家から出もしなかった息子の行動に
とんでもなく驚いていたようだが
「もう24なんだし好きにしろ。でもすぐに辞めるなよ」
と言われた
114: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 00:51:23.61 ID:W/rZejtD0
辞めてたまるか、と思った
人生詰みかけてた俺に、こんな転機は二度と無い
もう、あんな暗い部屋でうずくまっているだけの日々はごめんだ、と思った
でも、話があまりにもポンポンと進んでいく事に対する不安もあった
働くとは言え、パートと同じ扱いだし
先が見えないことに変わりはなかったわけだが、
この時の俺は「とにかく何か始めなければ変われない」
そう考えていた
もちろん、この考えは間違いではなかったし
電車に乗って旅に出て、本当に良かったんだ
116: 【Dliveetv1347375601300903】 本日の利用料 8,921円 :2013/03/28(木) 00:58:04.47 ID:HjNAwZqn0
一人旅は良くやるけどドラマチックな出会いとか皆無だなぁ…
117: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 00:58:14.97 ID:W/rZejtD0
そして俺は宿に荷物を持ち込んで部屋に入った
けっこう前まで住み込みの人がいたらしく、その人が使ってた部屋だ
4畳半ほどの狭い部屋
パソコンを置いて、布団を敷いたらほぼ一杯だ
でも、そんなの全然良かった
実家の鬱屈とした部屋に比べれば
今日からここが俺の新天地、そう思ってはりきった
118: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 01:22:45.66 ID:W/rZejtD0
親父さんに「仕事とかは明日からでいいよ」
と言われたので、俺はその日は一日プラプラすることに
夕方になって、あまりにも手持ち無沙汰だったのでケンの散歩へ行くことに
散歩しながら、もっとこの一帯の事を知ろうと思った
しばらく歩けば大きな国道にぶつかる事や、案外駅が近いと分かった
帰り道、一人で鼻歌を呟きながら帰っていると
この前会った女の子とまた出くわした
121: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 01:35:57.10 ID:W/rZejtD0
すれ違う際、また不審そうに俺のことを睨んでくる
さすがの俺も、きまりが悪かった
女の子「あなたこの辺りの人ですか?その犬は…」
と突然話しかけてきた
俺は慌てて、「○○さんの所で働くことになった者です…」と答えた
女の子は合点がいったように「ああ、それで」と呟いた
そして一言「失礼しました」と言って足早に去っていった
一体何だったんだ、と少々イラッとしたけど
ケンが俺の方を見て尻尾を振っていたので、そのままおとなしく宿に帰った
122: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 01:51:45.15 ID:W/rZejtD0
夕飯を食べたあと、食堂のソファに座ってテレビを見ていた親父さんに呼ばれた
親父さん「今日はゆっくりできた?どうだいこっちは」
俺「とってもいいところです」
そう言うと「そりゃ良かった」と言って親父さんは楽しそうに笑った
俺は心に引っかかっていた女の子の事を、親父さんに尋ねてみた
「今日、ケンの散歩してる時に女の子に話しかけられたんですけど…」
と一部始終を話した
親父さん「ああ、そりゃきっとカドワキさんとこの娘さんだね」
124: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 02:04:20.47 ID:W/rZejtD0
俺は思わず「え?」と聞き返してしまった
親父さん「すぐ近所の家だよ」
近所の子だったのか、となんだか申し訳なくなった
親父さん「この辺りはみんな知り合いみたいなもんだからね」
親父さん「○○君がケンを連れてるのを見て変に思ったんだろう。気を悪くしないでやっとくれ」
そういう事だったらしい。なんだか申し訳ないと思った
親父さん「うちにも回覧板を持ってくる事があるよ。会ったら挨拶してごらん」
俺は「はい」と答えたものの、ご近所がみな知り合いって感覚が新鮮だった
125: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 02:16:40.66 ID:W/rZejtD0
その後親父さんに「明日からは頼むね」って笑って肩を叩かれて
すっかり女の子のことは頭から抜けてしまった
そうだ、明日から俺は宿の一員となって仕事をする
こんな俺を拾ってくれたんだから一生懸命働きたい
俺はそう思って「任せて下さい!」って元気よく言った
4畳半の部屋で横になって、明日の仕事始めに備えた
嫌な気持ちなんてほとんど無く、ワクワクするくらいだった
126: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 02:23:59.96 ID:W/rZejtD0
宿の朝は早かった
まず起きて庭の草花に水やり、玄関の掃き掃除など
その後食堂で朝食の配膳を手伝う
慣れない仕事に戸惑いながらも宿の朝は賑やかに過ぎていく
その忙しさや活気が、なんだか俺には心地よかった
長年一人で篭もっていたことが嘘のように感じるほど
朝が過ぎれば各部屋の掃除に浴場清掃、ケンの餌やりに買い物等々
そして随時電話応対、予約の確認…
やることは本当に沢山あって忙しかった
127: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 02:28:29.23 ID:W/rZejtD0
すいません今日はこれで落ちます
続きはまた明日に書きますね
見てくれている人はありがとう
128:名も無き被検体774号+:2013/03/28(木) 02:29:12.38 ID:bBm793Dm0
待ってるぜよ
134:名も無き被検体774号+:2013/03/28(木) 02:56:05.36 ID:3PdgA7f/0
旅好きで安宿に泊まる俺には興味深いスレ。
支援。
175: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 23:07:39.67 ID:CtY83YxF0
>>1です
ちょっとパソコンの調子が悪いので携帯からです
遅くなってしまうかもしれないけど、ごめんなさい
180:名も無き被検体774号+:2013/03/28(木) 23:12:45.00 ID:LAOzOrx80
>>175
おかえりー!待ってたよー!
179: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 23:11:53.82 ID:CtY83YxF0
旅館での仕事は忙しかったが
どれもやりがいのあるものばかりだったと思う
ご飯の配膳をしていればお客さんに話しかけられるし
部屋をピカピカに掃除するのだって悪い気はしなかった
こんなクズニートの俺が、仕事を楽しいと思える
誰かの笑顔のためになってると思える
それが本当に嬉しくてさ
何より、親父さんと女将さんに本当に感謝してた
181: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 23:16:18.99 ID:CtY83YxF0
働き始めて間もない俺の事を
「○○君来てごらん!」「○○君調子はどう?」
と言っていつも気にかけてくれるんだ
そしてたまに、夜の暇な時間になると
食堂に俺を呼んで「どう、一杯?」と誘ってきたりする
優しくて温かい、でもどこかお茶目な
そんな人達だったんだ
182:名も無き被検体774号+:2013/03/28(木) 23:19:18.29 ID:0gZA9m1h0
「だった」ってことは...
184:名も無き被検体774号+:2013/03/28(木) 23:41:35.97 ID:LAOzOrx80
嘘だろ…
185: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/28(木) 23:48:10.06 ID:CtY83YxF0
そんな風にして、俺の人生初の仕事生活は
上手くいかないこともあったけど、順調に進んでいった
俺が働き始めてから間もなく、子供のいる家族連れが来た
宿の食堂には、大きなテレビとゲーム機が置いてあって
親父さんに「子連れさん来たから、ゲームを出しておいてね」と言われた
Wiiやプレステ3など、新しいゲーム機の中に
スーパーファミコンと、何やらスコープのようなコントローラがあった
俺はそれが何か分からず、手にとってまじまじと眺めた
186: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/29(金) 00:01:18.90 ID:IiE2+kBw0
俺「これは何ですかw」
親父さん「ああ、それね。スーパースコープ…だったかな?」
俺「ああ、聞いたことがあります」
確かに聞いたことはあったが、けっこう往年のもので、
俺は持っている人を初めて見たくらいだった
俺「なかなか珍しいものだと思うんですけど…」
親父さん「そうなの?うちの子が小さい時に買ったんだけど」
俺「あれ、子供さんいたんですか」
187: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/29(金) 00:03:46.76 ID:IiE2+kBw0
俺がそう聞くと親父さんは
「二人ね、いるんだよ」と言ったきり続けなかった
あまり話したげではなかったので、俺も詮索するのはやめた
そうか、二人には子どもがいたんだ
でもここに居ないということは、外に働きにでも出たのか
俺はこの時、その程度にしか思わなかった
190: ◆GZ9LcuBAFk :2013/03/29(金) 00:27:08.51 ID:IiE2+kBw0
そして夕飯が終わると、ゲームタイムだ
男の子の小学生の二人兄弟を相手に、Wiiスポーツやスマブラなどで激しく盛り上がる
「兄ちゃんふざけんな!」「今のはなし!なし!w」
などど言われながら、服を引っ張られたり叩かれたりするw
俺も童心に帰って楽しくゲームの相手をする
そのうちその子たちのお父さんや、親父さんまでもが混ざって
食堂はなんとも賑やかな雰囲気に包まれた