人を自殺させるだけの簡単なお仕事です - 暇つぶしのゆいたんねる - 4ページ

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人を自殺させるだけの簡単なお仕事です

投稿日:2017年3月12日 更新日:


 

211: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 13:49:30.24 ID:H0TWczxL0

「なにをするつもりだったんですか?」

「知人に連絡して、遊びに誘ったりするつもりだった」

「断られますよ、そんなの」

「そうなれば尚良かった。お前傷つくだろうし」

「……そうですね。効果覿面でしょう」

「お前が人に会いたくなくて外に出たくないなら、
俺はお前を人に会わせて外に出そうと思ったんだ」

「間に合ってます。もう外に出てますし、
現にこうしてくもりぞらさんと会ってるんです」

「じゃあそれを継続しよう」と僕は提案します
提案と言うか、もう決定なのですが





 

217: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 18:51:20.89 ID:H0TWczxL0

青空はお酒が飲みたいそうなので
僕は青空を喫茶店に連れて行きました
エスプレッソをふたつ注文します

「私コーヒー苦手なんですよ。にがいから」

「知ってる。ウィスキーは飲めるのに、変な話だ」

「コーヒー、毒みたいな味するじゃないですか」

「毒を飲んだことがあるような口ぶりだな」

「ええ、他人の体を使って、ですが」

僕が何も言わずにいると、青空は
「冗談でしたー」と言って微笑みます
冗談にしても分かりにくいし、何より面白くありません

 

218: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 19:01:00.18 ID:H0TWczxL0

僕が机の上に広げた参考書をのぞきこみ、
青空は不思議そうな顔をします

「勉強するんですか?」

「ああ。試験が近いんだ」

「そっか……そうなのか。私も勉強しよう」
青空は鞄から速読英単語を取りだします
それを見た僕は、なんだか懐かしい気分になります

運ばれてきたコーヒーに、砂糖をたっぷり入れ、
おそるおそる口をつけた青空は、「にがいー」と顔を歪めます

 

247: 名も無き被検体774号+ 2012/07/28(土) 23:58:31.32 ID:8I4+VxX50

「ちなみに私は、標的を見逃してから、
一週間くらいで能力を失いましたよ」

勉強を始めて二時間ほど経ったところで
青空が伸びをしながらそう言いました

「関係ないな。別に見逃したつもりはないから」

「傍から見ても、そう見えますかね?」

「ああ。どう見ても標的を狙う殺し屋だ」

「ふうん」青空はつまらなそうに言います
「それはそうと、勉強、はかどりますね。
なるほど、ここは勉強するのに良さそうです」

「なんてこった」と僕は言います、「勉強はやめにしよう」

 

249: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 00:06:13.23 ID:5WSHyzFN0

映画館に入った僕たちは、階段を下りていきます

「たしかに勉強には向かない場所ですね」
青空はきょろきょろしながらそう言います

連日の試験勉強で睡眠不足だった僕は
映画が始まって数分で眠ってしまいます

目を覚ますとほとんど映画は終わっています
登場人物たちは何かに感動して泣いている様子です
勝手に盛り上がってるんじゃねえよ、と僕は思います

「どんな映画だった?」と僕が聞くと
「殺人犯が酷い目にあう映画」と青空は答えます
映画の製作者もがっかりしていることでしょう

 

251: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 00:18:14.57 ID:5WSHyzFN0

「映画もドラマもそうですけど、人を殺した罪人って、
大抵、なにがあろうと、最終的には死にますよね」

「『人を殺すような奴は死んでしまえ』ってことだろう」
僕はくしゃみをしてから言います
「そういった意味での公正さを、人は求めてる」

「たとえ改心したとしても?」

「やっぱり、一度でも人を殺したような奴は、
たとえその後で聖人みたいになったところで、
どこか安心できないところがあるんだろう」

「私たちは死んだ方がいいってことですね?」

「つまりはそういうことなんだろうな」

 

252: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 00:34:06.70 ID:5WSHyzFN0

「なんだかそういうのはわくわくしますね」
前を歩く青空は、映画館出た後、振り返ってそう言います
「ここに生きているべきでない若者がふたり」

「なにがどう、わくわくするんだ?」

「あおぞらとくもりぞらですしね」
そう言って青空は僕の顔をのぞき込みます
何か言いたげな笑みを浮かべています





 

283: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 20:16:21.78 ID:I41n3WEg0
これは面白い

 

290: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 00:05:03.13 ID:B1JQekm80
ほう

 

312: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:11:17.00 ID:e6Xcvivh0

僕はなにか意地悪なことを言ってやろうとして
そのとき、不意に、「のぞかれた感じ」がしました

のぞかれた感じ。

「青空」僕は早口で聞きます
「一度、俺に遺書を直させようとして、
ものすごい力で抵抗したことがあったよな。
どうすればあれほどの力で抵抗できる?」

青空は「それはですね」と言いかけた後、すぐに勘付き、
「もしかして、のっとられてます?」と聞いてきます

 

314: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:24:58.55 ID:e6Xcvivh0

「いや、まだ大丈夫だけど、一瞬、覗かれたような感じがした」

「ああー。あれ、確かに覗かれてる感じしますよね」
青空はなぜか、はにかむように笑います
「ついにあなたも標的になっちゃったわけですね。なかまー」

「まだ決まったわけじゃない。俺の気のせいかもしれない」

「でも、仮に狙われ始めているんだとしてですよ、
なんで私より先にあなたを狙うんでしょう?
前回の経験から言うと、先に私を殺すはずなのに」

「俺もそう思ってたんだが、考えてみれば、今この場には、
『死ぬべき人間』が二人そろってるわけだ。つまり――」

 

315: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:25:41.50 ID:TUyGz3Xf0
うわぁぁぁ~気になるっ‼

 

316: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:31:28.47 ID:e6Xcvivh0

「つまり、『お前を殺して俺も死ぬ』の形式が、
いちばん手っ取り早いということですね」

納得したように青空がうなずきます

「相手の人、良い判断なんじゃないですかね。
私と違ってくもりぞらさんは操られるの初めてだから、
うまく抵抗することができないでしょうし。
そっかー、私はくもりぞらさんに直接殺されるのか」

「さっさと言え、どうすれば操作に抵抗できる?」

青空はそっぽを向いて、つんとした態度で言います
「教えてあげません。教えて欲しそうだから」





 

317: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:40:57.75 ID:e6Xcvivh0

僕たちはちょうど、街の広場に着いたところでした
木陰に入ったところで、僕は青空の後ろに回り
青空の細くてひんやりした首に、右腕を巻き付けます

青空は力を抜き、黙ってそれを受け入れます
”気をつけ”の姿勢のまま、後ろの僕に体重を預けます
僕の腕は少しずつ青空の首を絞めていきます

体を乗っ取られるのは初めての経験でした
あまりにも違和感がなくて、最初は自分の意思で
自分を動かしているかのような錯覚を受けました

おそらく今僕の脳は、「腕が動いたということは、自分から
腕を動かそうとしたということだ」と解釈しているのでしょう

 

318: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:49:51.79 ID:e6Xcvivh0

青空の首に絡み付いた僕の腕に、徐々に力が入ります
やむを得ないと思い、僕は青空の体を乗っ取り、
自分(曇り空)の体を突き飛ばそうとします

しかし、僕と違い、青空には抵抗ができます
僕の操作に逆らって、一歩も動こうとしません
なるほど、青空は本当に僕に殺されたいようです

ですが、その抵抗から、僕はなんとなくヒントを得ます

青空の体がぐったりしてきたあたりで
僕の腕は徐々に青空の首から離れていきます
青空は僕の腕をすり抜け、地面に倒れます

 

319: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:03:19.17 ID:e6Xcvivh0

無理に操作に逆らった僕の腕は
いったん全体の皮膚をひっくり返されて
硬いもので万遍なく殴打されたように痛みます

両手が自由に動くことを確認すると、僕は
眠そうな目で僕を見上げている青空に話しかけます

「つまり、『操作に抵抗しよう』とするんじゃなくて、
『操作の上書きをしよう』とすればいいってことか」

青空は不機嫌そうな顔で、小さな咳をします
「惜しかったなあ。気付くの早すぎですよ」

 

320: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:07:30.22 ID:8yk/f7qi0

引き込まれる

一気に読みたいぜ

 

321: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:11:50.77 ID:e6Xcvivh0

「もしかすると、もとから知ってたんですか?」

「いや。俺の操作に、お前が抵抗する感じを参考にした。
操りながら操られることで、とても効率良く学習できたらしい」

「なるほど……とは言え、体、めちゃくちゃ痛むでしょう?」

「ああ。自分が何しゃべってるかわからないくらい痛む」

「私もです。おまけに頭はくらくらするし。暑いし。
くもりぞらさん、私、首の汗ひどかったでしょう?」

「べつに」

「ひどかったんです。ああ恥ずかしかった」
どうでもいいことばかり気にする女の子です

 

322: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:18:05.83 ID:e6Xcvivh0

「さてと」、僕はしゃがみこんで青空の顔をのぞきこみ、
目をそらした青空の頬を強めに引っぱります
「いたいいたいー」と青空は気の抜けた声で言います

「なあ、なにが『教えてあげません』だよ?」

「あなたのまねです。ざまーみろ」

「しかも俺の操作に抵抗しやがった」

「おかげでコツを掴めたんでしょう、良かったですね」

僕は立ち上がろうとして、後方にバランスを崩し、
手をついてその場にへたりこみます
その拍子に、地面にあった枝で手を切ってしまいます
まあいい、と僕は気にせず放っておきます

 

325: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:28:22.95 ID:e6Xcvivh0

僕たちはびっくりするほど体が動かなくなっていて
立ち上がるだけで汗だくになりました

石畳からの照り返しが暑さに拍車をかけます
芋虫みたいな速度で涼を求めて歩きます

広場の噴水のふちに腰掛けようとしたとき
僕は勢いあまって水の中に落ちました
腹筋に力が入らないとこういうことが起こるのです





 

327: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:37:02.97 ID:e6Xcvivh0

水面に顔を出して、僕は顔を両手でこすります
広場にいた人たちの視線が僕に集まっています
青空は体の痛むところをおさえながら笑っています

僕は諦めて、両手をついて水中に座り、空を見上げます
飛行機雲がふんわりまっすぐのびています

近くの木にとまった二羽のカラスがこちらを見ています
もうすぐ餌になる対象を見るような面構えです

 

328: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:44:02.76 ID:e6Xcvivh0

「なにやってんですか」と青空が言います
「また誰かに操られてるんですか?」

「涼しげでいいだろう」と僕は答えます

「体中痛いんだから、笑わせないでください」

「笑い死ね」

「びっしょびしょじゃないですか」

青空はそう言うと、噴水のふちに立ち
ひょいと飛んで僕の横に着水します

水飛沫があがり、僕は目をつむります
広場中の視線が再び僕らに集まります

 

329: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:53:21.95 ID:e6Xcvivh0

十秒以上たっても青空が顔を上げないので
僕は青空が体を起こすのを手伝います

「溺死するところでした」と青空は言います
「こんな子供用プールより浅い場所で」

「『噴水で女子高生死亡』なんて、
ニュースを見た人が首を傾げるぞ」

「気持ちいいですね」青空は目を閉じて言います
「今もう一回操作されそうになったら、抵抗できます?

 

331: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:58:39.66 ID:e6Xcvivh0

「そこなんだよ。どうして向こうは追撃してこない?
今なんか、頭を下げるだけで溺死させられるのに」

「抵抗されて、びっくりしてるんじゃないですか?
経験のあるくもりぞらさんに聞きますけど、
操作に逆らわれたとき、どんなことを思いました?」

僕は少し考えてから、答えます
「お前の場合、それ以前に色々とイレギュラーだったから、
抵抗されても不自然に感じなかったんだよな」

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