一つの村が消えた話をする
投稿日:2017年2月25日 更新日:
八月十一日
村から離れていた人達が帰ってきた。
大人達、高校生達を合わせても十人程度の人数、この人数と村に留まっている者達を合わせた数が、本当の村人の人口だと言える。
この日から辿静祭の準備が始まった。
神社の参道、社、神楽殿の掃除や、彩の準備。
露店の準備に、村から外界へ通じる道の完全な封鎖網の準備、
障芽池の森の封鎖準備等、村全体が慌ただしくなってきた。
この時に、Bが開けた障芽池の森の入り口が塞がれていないか心配だったが、
Bによればそれは大丈夫との事。
午前中は俺の屋敷でAとBと遊び、午後は一人で釣りをした。
八月十二日
村の出入り口が完全に封鎖された。
出入り口に通ずる森や林にも封鎖網が施され、
村と外界が隔絶された。
障芽池の森の入り口が完全に封鎖され、
周囲を神主一族の者達が見回っているようだ。
辿静祭に関する場所の掃除や彩は大体終わり、
各露店の場所も分かるほどに準備は進んでいた。
この日は、Aが丸一日、浄縁神楽の練習との事だったので、
午前中は勉強、午後はBと釣りをし、一日を過ごした。
八月十三日
辿静祭への大体の準備は整った。
露店も準備が終わったそうだし、後は辿静祭当日を迎えるだけとなった。
神主一族の神主、つまりAの父親から村人全体に召集があった。
辿静祭についての話だそうだ。
禁の最終的な確認と、鬼無踊りの確認、
浄縁神楽の予定の確認、最後に神主から重要な知らせがあった。
神主「今年の辿静祭でも私の娘が浄縁神楽を舞う、
おそらくは完璧な出来となるだろう。
皆も、心して娘を見てくれ」
村人「wwwwwwwwwwwwww」
神主「wwwwwwwwwwwwww」
A「(*ノωノ)」
俺の傍で話を聞いていたAは照れている様だった。
正直、可愛いと思った。
八月十四日 辿静祭前日 昼
今日は辿静祭の前日だ。
村人の召集が再び神主からあり、
辿静祭の予定やそれに関する多くの事物が書かれた書類が配布された。
今日の夜、俺達は障芽池の森の祠に向かう。
その予定の最終確認を召集後に済ませた俺達は、Aの屋敷に来ていた。
Aが浄縁神楽を見て欲しいと言った為だ。
Aは、代々の巫女が着ける仮面を身に着け、扇や榊を手にし、浄縁神楽を舞ってみせた。
時間は三分程度だろうか、案外速く終わった。
俺は素直に、浄縁神楽に感動した。
Bも笑顔で拍手をしていた。
八月十四日 辿静祭前日 夕方
夜の予定を三人で再度確認し、各々の屋敷へ戻った。
夕飯を取り、俺は懐中電灯や虫払いの粉、何かあった時の自作の笛を用意し、準備を整えた。
八月十四日 辿静祭前日 夜
夜七時半になったので、俺は両親に、
「Bの家に忘れ物を取って来る」
と言い、Bの家に向かった。
Bの姿が屋敷の待ち合わせ場所に無かった事から、
Bは既に家から出ているらしい。
俺はAとの待ち合わせ場所に向かった。
A「お待たせー(^^)/」
俺「両親は大丈夫か?」
A「浄縁神楽の練習をしてくるって言って、抜け出してきた」
俺「そっか、Bが待ち合わせ場所にいなかったんだよ」
A「そうなの!?、予定通りにいくのかな」
数十分してBが到着した。
俺「どこいってたんだよ!」
B「ごめん!、開けておいた有刺鉄線の確認に行ってた。
直されていたら元も子もないからな
直されていなかったから、一先ずはいけそうだ」
A「そうなんだ、そろそろいこっか!」
俺「ああ、数分で着くし、準備確認しながら行こう」
B「了解」
Bが開けた穴の入り口までは、
なるべく人通りが少ない所を通って向かった。
俺「やっぱり、神主一族の人達が見回っているな」
はっきりとは見えなかったが、多くの人影が巡回しているように見えた。
B「隙を見て行こう」
A「先頭はBが行ってね、私と俺君は場所を知らないんだから」
B「分かった」
人影が穴の傍を離れた隙に、俺達は移動した。
俺は我先にと穴を潜ろうとした。
俺「おいB!、穴通りにくいぞ!」
B「潜れば行けるって」
俺は服の背中を有刺鉄線に引っ掻けながらも、穴を抜けた。
BとAも難無く穴を抜け、森の中に入った。
俺「ここからどうするんだ?」
B「この森を北東に抜ければ、獣道へ出る筈だから、一先ずはそこに向かう」
A「森の中、何か不気味」
俺「ああ」
俺達は懐中電灯を灯し、獣道へ向かって歩き出した。
山の中の村に住んでいるとは言え、多くの獣が徘徊する森、
俺達は獣が動き出す夜の森に入った事が無かった。
山犬の遠吠えが響き渡り、足元には蛇や虫がたくさん。
俺とBは平気だが、Aがずっと俺の袖を掴んでいることから、やっぱり女子なんだなと思う所もあった。
歩き始めてから、軽く三十分は経ったと思う。
獣道にはまだ出ない。
俺「おいB、まだ道に出ないのかよ?方向間違えて無いか?」
B「方位磁針を使っているから、そうはならないと思うが」
俺「少し見せてみ」
B「ほら」
俺「確かに、方向はあっているな」
A「大丈夫なの?」
俺「ここまで入ってきた以上、今から帰るとしても森の中で迷うだけだから、獣道へ出るまで歩くしかない」
A「そっか」
B「行くぞ」
俺達は歩きだした。
と、歩き出して五分程経った時の事だった。
獣道へ出たのだ。
俺「この獣道であってたか?」
B「多分そうだと思う、時間的に」
A「どうする?」
俺「確認する為に、この先にある筈の障芽池まで行くっていうのは?」
B「だな」
A「障芽池にあまり近づかないようにね」
俺とBは、そもそも障芽池を見た事すら無く、A自身も小さい頃に一度両親と行ったきりだそうだ。
なので、障芽池に続く道かも分からなかったから、祠に行く前に確かめる必要があった。
数分程度歩いた時の事
B「獣の声とかしなくなったな」
俺「確かに、山犬の遠吠えとかも聞こえなくなった」
俺「どうしたA?」
Aの元気が無かった。
A「実は、この獣道へ出た時から何か寒気がしてて」
俺「寒気、大丈夫か?」
B「上着とか、貸すぜ」
Aはワンピース姿なので、夜の夏で寒いのも無理はないと思った。
A「何かね、肌に直接くるような寒気じゃなくて、心に直接来るような寒気なのよ」
俺達はAの状態が、良くない事に気が付いていた。