支援
――
【宿屋】
勇者「てっとり早く話そう。実はオレはもう、三度も魔王撃破を経験している」
戦士「は?」 僧侶「えっ?」 賢者「なんですって」
勇者「そしてさきほど王様の前で記録した瞬間をスタート地点として」
勇者「魔王撃破後の(おそらく)王の祝典をゴール地点に時間が巻き戻されるという、ループ状態に遭っている」
勇者「元凶はこの冒険の書だ。このループを脱出するには――」
戦士「ちょちょちょちょっと待て! 完全に意味が分からん!」
僧侶「そ、そうですよっ、勇者様が何を言ってるのか私にはさっぱり……」
賢者「言っていることは理解できますが、話の見通しがありません。根拠となる材料を」
勇者「あ、ああそうだった。すまない、いつの間にか焦っていたみたいだ」
勇者「まずはオレの言っていることを信用してくれ。そのための『呪文』は用意してある」
戦士「呪文ん?」
勇者「ああ。未来のみんながオレに教えてくれた合言葉だ」
勇者「一人ひとり違うから……これから一人ずつ別室にきてくれ。プライバシーは守ろう」
支援
【別室】
勇者「まずは賢者、お前からだ」
賢者「未来の私が、勇者さんに妙なことを吹き込むほど切羽詰ってなければいいのですが」
勇者「さすがに状況の飲み込みが早いな。だがお前の『呪文』はとびきり妙だぞ」
賢者「どうぞ」
勇者「よし言うぞ……『赤メダパニ青メダパニュ黄ミェダパニュ』」
勇者「すまん間違えたもう一回。『赤メダパニ青メダアパニ黄メダパン』」
勇者「『赤メダパニ青メダパヌ黄メダパム』。『赤メダパニ青メダパニュキメーダパニ』あーくそ!」
賢者「なるほど」
勇者「な、何笑ってんだ! お前からもらったメモは『できるだけ早く』なんて注釈までついてたんだぞ!」
賢者「失礼しました。勇者さんがすでに魔王を倒したという話、確かに信じましょう」
勇者「ど、どういうことなんだ?」
賢者「勇者さんが早口言葉が大の苦手であることを知っている人間も、そう多くはないということです」
賢者「それに普段は凛々しい勇者さんのおちゃめな一面も独り占めできましたし私は満足です」
勇者「な、なんだって? 早すぎてよく聞き取れなかったもう一回」 賢者「では次は僧侶さんを呼んできますね」
【別室】
僧侶「あ、あのう勇者様。わ、私はどうすれば……」
勇者「『全部で100回』」
僧侶「!!」
勇者「という言葉に心当たりはあるか?」
僧侶「ど、どうしてそれを……正確には96回ですけど……」
勇者「いや。これは未来の僧侶から教えてもらった言葉で、意味までは教えてくれなかったんだが」
僧侶「あ、ああそうなんですねっ。ま、まさか勇者さんも一緒に数えていたのかと思ってびっくりしました!」
勇者「何を?」
僧侶「えっ? ほ、本当に大したことじゃないんですよっ。勇者様のことは信じますので今のは忘れてください」
勇者「気になるからできたら教えて欲しい」
僧侶「ダ、ダメです! そ、その、恥ずかしい……ですから……」
勇者「恥ずかしい96回? ??」
僧侶「ちっ違いますっ! 違いますよっ!! 神に誓ってそういうコトじゃないです!!」
勇者「はあ。もう面倒くさいからいいや」
【別室】
戦士「おい勇者! 早く魔王を倒しに行こうぜ!」
勇者「いいか。お前だけかしこさが2ケタあるのか不安だからよーく聞け」
勇者「オレはお前の親父の遺言を知っている。なぜなら未来のお前に聞いたからだ」
戦士「未来の俺……?」
勇者「『魔王に初めて傷を与える男になれ!』」
戦士「お……おおお!」
戦士「おおおおおおお! なんでお前がそれを知っているんだ!?」
勇者「お前に教えてもらったからだ。いいな、これからオレの言うことは全て信じろ。そして」
勇者「大人しくしていてくれ。事態は深刻だ。くれぐれも邪魔をしないよーに」
戦士「そんなわけに行くか! 魔王を倒さねーとお袋に合わせる顔がねーよ!」
勇者「……お前30万ゴールドもありゃ暮らしに困らないって、お袋のか?」
戦士「な、なんだそりゃ? そりゃそんだけの金がありゃラクできるだろうけどな!」
勇者「そうか。……待ってろ。すぐにその生活、叶えてやるからな」
戦士「あたりめーだ!」
支援
――
勇者「――というわけなんだ」
賢者「時の保存書……」
僧侶「そんな……いくら頑張っても時間が巻き戻されるなんて……」
戦士「やっぱり理解不能だったぜ!」
勇者「巻き戻しの条件は一つ。オレたちが魔王を倒すこと」
勇者「いや、たぶん正確には違うな。俺たちがこの物語の、役目を終えることだ」
僧侶「物語? なんだかロマンチックですね」
賢者「王の時も少し話しましたが、その役目を与えているものというのは何者なのでしょうか?」
勇者「分からない。分からないが――オレたちの概念を遥かに超越した存在だ」
僧侶「……神……でしょうか?」
勇者「さあな。けれど、僧侶が崇拝しているような存在とは別のものだと思う」
勇者「支配者……いや……創造主……?」
勇者「とにかくそれが定めた縛りがある限り、このループから抜け出すことはできない」
戦士「Zzz」
勇者「前回は巻き戻しが起こる直前に、冒険の書をメラで燃やした。だが」
勇者「この通り効果はなかった。だから今回はこの冒険の書を」
勇者「『魔王を倒す前』に燃やそうと思うんだが、どう思う? 賢者」
賢者「そうですね……時の保存書としての効力は残っているとはいえ、やはり同じ結果になると思います」
賢者「いくらこの時点で冒険の書を抹消しても、過去の記録がある以上は巻き戻しの呪縛は解けないでしょう」
勇者「オレもそう思う。だから今回は、そこからさらに一歩進めてみようと思う」
賢者「といいますと?」
勇者「その前にまず、もう一度冒険の書に記録をしよう」
僧侶「またお城に戻るんですか?」
勇者「ああ。今まで単に機会がなかったが、みんなの信用を得た『今』を記録すれば、今後同じことをする手間が省けるからな」
賢者「――しかしながら、勇者さん視点でしか本質を理解できないセリフですね。我々には未知の領域です」
僧侶「そ、そうです。私たちはまだ、魔王に会ったことすらないんですよ?」
勇者「大丈夫、なんとかなる。それにしてもこのギャップにも大分慣れてきたな」
勇者「よし起きろ戦士。もう一度城に行くぞ。ほら!」
戦士「ぶあっくしょおおおい!」 勇者「いいからもう」
【王の間】
王「――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」
勇者「はい」
王「……」
王「しかと きろくしたぞよ」
王「どうじゃ? また すぐに たびだつ つもりか?」
勇者「いいえ」
王「では しばし やすむがよい! また あおう! ゆうしゃよ!」
勇者「お休みなさいませ」
勇者「これでよし。宿屋で一晩明かして明日魔王を倒すぞ」
戦士「え? 終わり? 何しにきたの!?」
賢者「やはり当事者でなければ、意味のある行為には見えませんが」
僧侶「勇者様のすることにきっと間違いはありませんよっ」
勇者(だといいんだけどな……)
【宿屋】
ゆうしゃは メラを となえた! ▼
ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼
勇者「よし」
戦士「おおおおおいおいいいのかよこれえええ」
僧侶「う……分かってはいましたが、今までの冒険の足あとがこんな簡単に……」
賢者「勇者さん。先の勇者さんの話も織り込み済みで言わせていただきますと」
賢者「私たち視点では、勇者さんがいきなり訳の分からない理由で冒険の書を燃やしたようにしかみえないのですが」
勇者「『永遠に平和な日々を過ごせない』リスクと天秤にはかけられない。どうかここはオレを信じてくれ」
僧侶「し、信じます!」
賢者「勇者さんがそこまで言うのなら」
戦士「もう俺には訳が分からんよ!」
勇者「さて……寝るぞ! 明日は決戦だ!!」
戦士「そうそれ! そういう分かりやすい流れにしてくれよ!」
勇者(……効力のあるうちに冒険の書を抹消……果たしてこれで『何者か』の呪縛を解いたことになるのだろうか……)
――
勇者「おはようみんな、準備はいいか」
僧侶「いつでもオーケーですっ」
賢者「特に異常は」
戦士「眠い! 寝不足だ! だが気合でカバーできるぜ!」
勇者「よしいざ出陣だ」
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
【魔王城城門】
勇者「よしちゃっちゃか行くぞ、すぐやるぞ」
賢者「昨晩勇者さんがまくし立てたデータが真実であれば、魔王など軽く丸腰ひねるがごとしですが」
僧侶「神よ、どうか我らにご加護を……」
戦士「う~ん眠い! だが! 気合でカバーできるぜ!!」
勇者「よし、みんな行くぞ!」
勇者(うまくいかなかったときの時間のロスが精神的に惜しい。今回は最速タイムを弾き出すつもりでいこう!)
――
勇者「あと一発! これで終わり!」
ゆうしゃの こうげき!
まおうに ××のダメージを あたえた!
まおうを たおした!! ▼
真魔王『ぐおおおっ。おのれにんげんどもめ。だが このからだくちようとも――』
勇者「よし、城に帰るぞ!」
賢者「魔王がまだなにか言ってますが」
勇者「後で聞かせてやる、すぐに帰還だ」
僧侶「えっ……終わっ……えっ? えっ?」
戦士「ん……んん!? 倒した? もしかしてもう倒しちゃったのか? っしゃあああああ!!」
賢者「我々のここまでの苦労をあざ笑うかのような瞬殺っぷりでしたね」
僧侶「勇者様の天才的な指示の賜物です!」
戦士「っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!」
勇者「いいから帰るぞ! 王に会いにいく!」
戦士「なにイライラしてんだよ!」 勇者「もう飽きたんだよ!」
夢の中で夢を見ていてその夢も夢でさらにその夢も…みたいな怖さがある
――
【王の間】
王「ゆうしゃよ よくぞ だいまおうを たおした!」
王「こころから れいを いうぞ! そなたこそ まことの ゆうしゃ!」
王「そなたのことは えいえんに かたりつがれてゆくであろう!」
戦士「よっしゃー凱旋だー!」
賢者「展開が早すぎて順応に時間がかかります」
僧侶「あ、あの勇者様……勇者様?」
勇者(……さて、果たして呪縛は解かれているか?)
勇者(どうなる? これでダメだったら……)
そして でんせつが はじまった!
・
・
・
THE END
王「よくぞ もどった!」
王「ではゆくがよい! ゆうしゃよ!」
勇者「…………」
僧侶「勇者様?」
戦士「どうした勇者ぼーっと突っ立って!」
賢者「……この、今の地点に巻き戻されたのですか?」
勇者「……ああ……」
僧侶「え? い、今、戻ってきたんですか?」
勇者「……ああ。四回目の、魔王討伐を、終えたところだ」
戦士「何言ってんだ、魔王はこれから倒しに行くんだろ!」
勇者「…………」
勇者(効力がある状態の冒険の書を抹消しても、過去の冒険の書の記録がある限り、全て無意味……)
勇者(残している手段は……)
勇者(気が進まないが……他に試す手も思いつかない……)
ゆうしゃは メラを となえた! ▼
ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼
戦士「あっ!?」
僧侶「えっ!?」
賢者「!?」
勇者「王様」
勇者「もう一度、冒険の書に記録をお願いします」
僧侶「ちょ、ちょっと勇者様何を言って……」
戦士「おいコラ! 気でも狂ったのかよ!」
賢者「皆さん、ここは勇者さんに任せましょう」
勇者「……」
勇者(冒険の書を消滅させた上で、王に冒険の書の記録を要請……)
勇者(これがどうなるのか少し気になっていた)
勇者(解決策とは思えないが、何か手がかりくらいは掴めるかもしれない……)
王「――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」
勇者「お言葉ですが王様、冒険の書はもうこの世にありません」
王「――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」
勇者「いえですから、冒険の書は」
賢者「勇者さん、様子が!」
王「この ぼうけんの しょ にに に 」
戦士「おい勇者、こいつぁ いうこ ん よ !」
僧侶「 者 様 」
勇者(そ、そうか……本来あるはずのアイテムがないために、王は与えられた役目を果たせない!)
勇者(ルールに露骨に干渉したことで、世界を保つ歯車が狂ってしまったのか!? れ は もう わりなの ?
王「ゆう 111111111111
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絶望感パネェ